第32話 出自について
「ちゃんと説明してよあき君! 私とあなたの血が繋がっているかも知れないってどういう事!?」
例の象のすべり台の公園で、若葉ちゃんがいつになく激高して私に喰ってかかっている。
熱を出して学校を休んだ日、お見舞いに来てくれた若葉ちゃんは、先に家に来ていたミュウちゃんと鉢合わせし、あろうことか私の秘密を知る二人目の女の子となってしまった。
あの時は、みのりちゃんが帰って来てしまった為、話は途中で終わったのだが、二人でいろいろ情報交換したみたいで、私が風邪から回復した三日後、改めて若葉ちゃんに呼び出され、詳細を詰問されていた。
「だから事実は分かんないんですよ。その可能性が有るってだけで……ただ、僕が魔法に使う材料のマナは、僕が何等かの血縁がある人にときめかないと造れないんじゃないかって事で……」
「それじゃ、あの時の魔法は私にときめいて……それはそれでうれしんだけど、それってやっぱり私とあなたの血がつながっているって事なのよね!?」
「だからそれは……」
「ウソよ。何よそれ……せっかく初恋で一目ぼれの相手が、もしかしたら姉弟かもしれないですって。そんなの報われないじゃない!」
若葉ちゃんが感極まって泣き出し、遠くの方で遊んでいる子供の親と思われる人達が訝しげにこちらを眺めていた。
「若葉ちゃん。とにかく落ち着いて! まだ確定じゃないんだから」
私はゆっくりと若葉ちゃんの背中をさすり、ようやく若葉ちゃんも落ち着いて来た様に見えた。
「……それじゃあさ。私の本当のお父さんって、あき君のお父さんなのかな?」
「いや、それは何とも……でも、そんな事お母さんには聞けないよね?」
「……聞いてみる」
「はいっ?」
「私、お母さんに私の本当のお父さんが誰なのか聞いてみる……」
「いや、そんな事聞いちゃったら……それにちゃんと答えてくれるかだって……」
「大丈夫。正直に答えてくれたら、今度の再婚話を認めてあげるって言うから。それにこの間の晩の事もあるし、あき君も一緒に来て!!」
「ちょっと若葉ちゃん……そんな……」
渋る私の手を半ば強引に引っ張りながら、若葉ちゃんは自宅に向かった。
まだ三時過ぎで陽も高かったが、若葉ちゃんのお母さんは家にいた。
「里中君。この間の夜は若葉が迷惑かけたみたいでごめんね。あなたがずっといっしょにいてくれたんだって?」
このお母さんも私の母に負けず劣らずの美人で、私の母よりも色気マシマシである……というか化粧、結構派手だな。これから再婚相手とでも会うのかな。
「いえ。僕も若葉ちゃんの事が心配でしたから……でも、一晩いっしょに居ましたが、別にエッチな事とかはしてないですから安心して下さい」
スカートに手を突っ込んだまま、空を飛んだ事はもちろん内緒だ。
「ぷっ。別に疑っちゃいないし、仮にやってても何も言わないわよ。あなた達、まじめにお付き合いしてるんでしょ? あれ? 若葉がそう言ってたんだけど……違うの?」
「あ、いえ……それはそうなんですが……」
言葉の端を濁す私を遮るかの様に、若葉ちゃんが口を開いた。
「そうよ! 私とあき君は将来を誓い合ったの! 私は、最初にあき君を見た時からずーっと大好きで、大きくなったら結婚しようって思ってて……でもねお母さん。どういう事なの? 私とあき君が血の繋がった姉弟って、一体どういう事!?」
いや若葉ちゃん。いきなりそんな切り出し方しても通じないって! だいたい何を根拠にそんな事を聞くのか、お母さんにはさっぱり分からんでしょ!
「若葉……あなた一体何を言ってるの?」
ほーら、やっぱりそうなっちゃうでしょ。仕方ないので私がフォローする。
「いえおばさん。若葉ちゃんはちょっと混乱しちゃってますけど、多分、おばさんの再婚話を納得するにあたって、自分の出自をはっきりさせたいんだと思います。そこがはっきりしないので変な妄想をしているのかと……」
小学生にしてはなんか理屈っぽい物言いだが……まっ、いいか。
「……そうなの若葉?」
怪訝そうな顔のおばさんに若葉ちゃんが深呼吸をして答える。
「……そうよ。私が子供の頃、ずっとパパだと思ってた人は本当のパパじゃないんでしょ?」
若葉ちゃんのお母さんはしばらく眼を閉じて考えていた様だが、やがてゆっくり語りだした。
「……そうね。いつかは話さなきゃとは思ってたけど、今がその時なのかもね。確かにあの人は、あんたが生まれたちょっと後からいっしょに暮していただけの人よ」
「それじゃあお母さん!? やっぱり……」若葉ちゃんが色めき立つ。
「慌てないで若葉。ちょっと大人の話になるから……里中君には帰って貰った方が……」
「いえおばさん。僕、気持ちだけは大人です!! 若葉ちゃん一人だけだと心配ですし、そばについていてあげたいです」
「……ありがとう里中君。確かにあなたはしっかりしていて、私の娘が惚れるだけの事はあるわね。それじゃ側で若葉を見守っていてね」
いやいや。せっかく事実確認が出来るチャンスなのに、ここで帰る選択肢はないぞ。
「若葉の本当のお父さん何だけどね……」
ごくりっ。私も若葉ちゃんも息を呑む。
「……本当に誰だか分からないのよ」
「えっ?」いやいやおばさん。それって一体?
「言いにくいんだけど、私、若い頃から夜のお仕事でね。いやまあ今もそうなんだけど……若い頃、勢いに任せてお店のお客さんと次々に……」
「ええっ!? それじゃ、もしかしてその中に僕のお父さんも?」私がつい声を上げてしまう。
「?? 里中君はどうしても若葉と姉弟になりたいのかな? だけど……お付き合いしたお客さんに里中さんって人はいなかったよ。だけど偽名のお客も多いから何とも言えないか……ごめんね」
そんな……何にも解決になっていないぞこれ。いや! そうじゃない。そんな話、若葉ちゃんはショックなんじゃないか? 私は慌てて若葉ちゃんの顔を見る。だが思いの外、彼女の表情はサバサバしている様に感じた。
「あーあ。やっぱそんなところか……お母さんがずっと夜のお仕事なのは知ってたし、女手一つで苦労して私を育ててくれたのは感謝しているよ。だから何となくそんなところじゃないかとは思ってたんだけど何も言わなかったの。でも……あき君のお父さんの写真とか見たら判かる?」
「ごめん若葉……酔っぱらって関係した人もいて、お相手を全部覚えているかと言われると自信ない。何であなた達が、自分らは姉弟だと疑っているのかは分かんないけど……でもそうか。ほんとに姉弟だったら結婚出来ないから不安が残るのか。どうしてもっていうならDNA鑑定とかは出来るんじゃない?」
いや、おばさん。結婚前提の話ではないんですが……でもDNA鑑定か。そんな便利なものがこっちの世界にはあるのだな。だが、ミュウちゃんの様に魂だけ血縁だと、私と若葉ちゃんの関係はDNA鑑定でも分からないよな。
しかし……少なくともこちらの世界での生物学的な血縁が否定されれば、若葉ちゃんの気持ちも落ち着くだろうし、私も彼女と堂々とエッチ出来る……いや! そうじゃなくて……。
結局、若葉ちゃんのお母さんが、それで若葉ちゃんが安心するならと、DNA鑑定の費用を出してくれるみたいな話になって、私も、自分の家族には内緒と言う前提でその話に加えてもらう事にした。
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