第9話 お姉ちゃんとのクリスマス

「それじゃお母さんはちょっと遅いかも知れないけど、二人で仲良くしててね」

「あー。もしかしてお母さんもクリスマスデート?」

「なに馬鹿言ってんの。仕事よ。みのりはお姉ちゃんなんだからちゃんとしてよね」

「はいはい。大丈夫ですって」

 そう言いながらお母さんは、玄関先の霜柱を踏みながら勤め先に向かった。

 私と姉のみのりちゃんは、もう小学校も冬休みなので特に用事もないのだ。


「それじゃあき君。ケーキ取りに行こうか」

 お店が開いた頃を見計らって予約していたクリスマスケーキを二人で取りに行くのだ。ついでではないが、夜の食事を好きに買って来てよいとお母さんにお金も貰っている。スーパーで骨付きチキンやジュースを買い込み、最後にケーキ屋に立ち寄る。クリスマスというのは私の元の世界には無かったが、似た様なお祭り事はあって、どこの世界でもやる事にはそんなに大差ないのかなというのが正直な感想だ。


「ねえお姉ちゃん。ケーキ、なんか大きくない?」箱を横にしない様懸命に持つのだが、三人で食べるにしては大きすぎる気がする。

「ああ。お母さんがおばあちゃんの御仏壇にも上げるんだっておっきいやつ頼んだのよ」なるほど。それは慎重に運ばねば。


 家に帰ると早速パーティーの飾り付けだ。

 居間の真ん中にテーブルを置き、壁に折り紙で作った星やリボンをくっつけていく。夕方頃にはそれなりのパーティー会場の出来上がりだ。


「よーし完成。お母さんも遅いって言っても九時位までには帰って来るからお腹空かせておこうよ。それじゃ、ケーキも出しておこうかな」

 そう言ってみのりちゃんは冷蔵庫にしまってあったケーキの箱を取り出そうとしたのだが、そんなに大きくもない冷蔵庫の戸口に、無理やり詰めた感じのケーキの箱の取っ手が引っ掛かったのが見えた。

「あっ!?」

 私が叫ぶのと、ケーキの箱がクルンと回って床にドカッと落ちるのが同時だった。


「あー!? やっちゃった……」みのりちゃんが呆然としている。

 私はあわてて駆け寄り、ケーキの箱をそっと元の向きにひっくり返して開けてみるが……ああ、中身は見るも無残な状況だ。

「あっ……あっ……」みのりちゃんは、そのまま床に座り込んで、ポロポロと涙を流し始めた。

「あー、お姉ちゃん。大丈夫だよ。崩れちゃったけど食べるのに問題ないから」

「でも……でも……うわぁーーーーん!!」

 ああ、ついに堰が切れた様に泣き出してしまった。どうやって慰めたものか。


 私は一計を案じ、崩れたケーキのホイップクリームを手に取り「あーん」と言いながらみのりちゃんの口先に近づけた。するとみのりちゃんは泣き止んで、私の手ごとパクっと口にいれたのだ。

「うわっ、お姉ちゃん。僕まで食べないでよ」

「ふふっ。あき君おいしい……それじゃ、こんどはお姉ちゃんが食べさせてあげるね」すっかり泣き止んだみのりちゃんが、クリームを手に取ったと思ったら、それを自分の頬に塗って私に言った。


「あき君。食べて……」

「えっ? でもそれ……」ほっぺにチューでは? と考えるのは大人の思考だ。私は一応小学二年生の子供なので、遠慮なく姉の頬を舐めねばなるまい。

「ぴろっ!」

「うはっ、くすぐったい! それじゃ今度はあき君のほっぺたね」

 そう言って姉は私のほっぺたにクリームを塗り、それを綺麗に舐めとった。


 キュンキュンキュンキュン。もうマナ出まくりである。

 そしてなぜか姉の目が潤んできているのが分かった。あれ? これってもしや……


「あき君。お姉ちゃんのおっぱい食べてみる!?」

 うひゃあ! やっぱ発情してる?

「いやお姉ちゃん。そんなのだめだよっ!」

「大丈夫! ほら。こうすれば……」

 みのりちゃんは、ケーキの大きな塊を手に取ったと思ったら、いきなり服の上から自分の胸に押し当てた。確かにおっぱいに見えなくもない。

「ほら。これならエッチじゃないでしょ? あき君食べて」 

 あー、いや。でもこれなら確かに直接じゃないしな。

 ケーキを崩して落ち込んでいる姉を励ますためだと割り切って、私は思い切りそのケーキを口に頬張り、みのりちゃんが「ふひゃん!」と変な声を上げた。


 キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン。


 いやさすがにちょっと照れ臭いというかこれ以上はダメな様な気がする。そう思っていたのだが、みのりちゃんがいきなりケーキの固まりを掴み、そこに正座していた私の股間に置いた。

「それじゃ……お姉ちゃんがあき君のそこ。食べてあげるね」

 いや待って姉さん。さすがにそれはダメですよ! いかん。このままではお姉ちゃんにくわえられてしまう。そう感じた私は思い切り立ち上がったのだが、顔を近づけて来ていた姉の顔面に、私の股間に乗っていたケーキのかけらが盛大に張り付いた。

「きゃっ! あき君。いきなり顔は……」

 姉は怒りながら、自分の口の周りにべったりとついたクリームを舌で舐めていた。


 キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン。

 キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン。


 そしてもうすぐお母さんが帰って来ちゃうからと言って、姉にその場を片付けさせ始める事になんとか成功したのだった。


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