6

メロスは決意を新たに、王ディオニスの元へと戻ってきた。

だが、その足取りはもう、まったくの迷走だった。セリヌンティウスに会ったはいいものの、やはり「信じる心」について何も得られなかったのだ。むしろ彼の冷徹な人間不信がメロスに深い混乱をもたらし、心はさらに荒れ果てていた。


王宮に戻ったメロスは、廊下を一歩踏み出すたびに思考がぐるぐる回り、心はますます混乱していた。

「信じる心とはなんだ?裏切りとは何だ?一体、誰を信じればいいんだ?」


そのうち、何もかもがどうでもよくなり、ただひたすら突っ走って王の間を目指すことにした。


「王よ!私は来た!信じる心を証明しに来たぞ!」


しかし、王の間へたどり着く道は、ひどく遠回りであった。メロスは何度も迷子になり、途中で数回、王の部屋を間違えて掃除用具置き場に入ったり、調理場に突入したり、さらには王の寝室を何度も通り過ぎていた。結局、王の間に到着したのは、メロスが必死に走り回った後、汗だくで力尽きたときだった。


その瞬間──。


「おお!ついにたどり着いた!!」


王ディオニスが、メロスの姿を見ると目を丸くして叫んだ。「お前、また…どこを迷子になってたんだ!」


メロスは、目を血走らせながら言った。「王よ!私はここに来た!私が示すのは、信じる心の力だ!!」


「だから、何を示したいんだよ!もう、そんなひもとかいらないから!」


「いや、このひもこそが!私の信じる心だ!」

メロスは突然、王の前でひもを振り回しながら、わけのわからないダンスを始めた。


「お前…何をしてるんだ!?」


「信じる心を…証明するために…!」

メロスはひもをどんどん絡ませながら、踊り狂っている。


王は呆れ果てていた。「こいつ、完全に頭がおかしくなってる…」


その瞬間、城の中から予期せぬ声が響いた。「メロス!メロス、ちょっと待て!」


メロスは踊りながら振り向くと、そこにはセリヌンティウスが現れた。

セリヌンティウスは冷静に言った。「お前、また迷子になって帰ってきたのか?」


「違う!俺は信じる心を証明しようとしてるんだ!」

メロスはまだひもを振り回していた。


「それで、信じる心をどう証明するつもりだ?ひもで踊ることか?」


「いや、それは違う!ひもは…ただの、信じる心の象徴だ!」

セリヌンティウスはすごく冷たい目でメロスを見つめ、深いため息をついた。「お前、もう終わってるだろ」


「だが、私は諦めない!」

メロスは突然、セリヌンティウスに向かって走り出し、ひもを絡ませようとした。


「いや、ちょっと待て!」

セリヌンティウスは避けようとするが、間違って王の玉座の上に飛び乗ってしまう。


「セリヌンティウス!」

王はすでに呆れ顔。「おい、何をしてるんだ、君たち!」


そのとき、セリヌンティウスが何かに気づく。

「おい、メロス、このひも、今、王様の椅子に絡んでないか?」


「え?」

メロスは一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、すぐに王の玉座がひもで絡まっているのに気づく。


「おい、待て!それは…!」

王はひもを引き剥がそうとしながら、怒鳴った。「お前ら、いい加減にしろ!」


メロスとセリヌンティウスは、そのひもを一緒に引っ張るが、玉座は動かない。

「どうなってるんだ?」メロスはさらに力を込めて引っ張る。


そのとき、王の部屋の扉が突如として開き、突入してきたのは…

「メロス、何をしてるんだ?」と叫んだのは、セリヌンティウスの母親だった。


「…え?」


「お前、今、王様の玉座を壊しかけてるんだよ!」

母親は冷静に言い放った。


「お母さん!どうしてここに!」

セリヌンティウスは驚き、あわてて母親を見た。


「お前、こんなところで迷子になってんじゃないよ!」

母親は息子を怒鳴りつけながら、メロスに向かって言った。「お前もいい加減にしろ!ちゃんと王様に謝ってこい!」


メロスは涙目で言った。「でも、私は…信じる心を示すために…!」


その瞬間、王が再び立ち上がり、声を荒げた。「信じる心ってなんだ!お前ら、誰もかも信じられないのか!」


「そうだ、誰も信じられない!」

セリヌンティウスは叫んだ。「信じる心なんて、結局空虚なものだってことを、俺は何度も思い知らされてきたんだ!」


その言葉を聞いた瞬間、メロスははっとした。そして、ふと思った。


「…そうだ、信じる心って、きっと、他の誰かじゃなくて、俺自身が何かを信じる力が必要なんだ。」


その瞬間、王がメロスに向かって言った。「お前も、いい加減にしろ。信じる心がどうとか、そんなもの、最終的にはお前がどう自分を信じるかだってことを、みんなわかっているんだよ!」


メロスはしばらく黙っていたが、やっと顔を上げ、言った。


「そうか…。俺は、自分を信じるべきだったんだ」


その言葉に、王は静かに目を細めた。「…やっとわかったか」


そして、まるで何事もなかったかのように、王は言った。


「じゃあ、信じる心を試してみろ。さあ、次はどうする?」

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