以下略 4
王ディオニスは、困惑した表情を浮かべつつも、無理やりメロスを自分の「人質」として扱うことを決定した。しかし、メロスはまったくそのことに気づいていなかった。
「よし、さあ行け。今からお前は私の“人質”だ。」
王が指示を出すと、メロスは少し不安げに聞き返した。
「おう、そうか!わかったぞ!」
「…本当にわかっているのか?」
「わかってる!私が信じる心を証明するため、君が人質になるんだろ?」
「いや、逆だってば!私はお前を信じてやるために、人質を取らなきゃならんのだよ!」
メロスは首をかしげる。「それがどうして逆になるんだ?」
「…お前のためだよ、メロス。」
やっと自分がどうなっているのかを理解し始めたメロスは、焦りながらも「よし!ならば、さっさと信じてくれ!」と力強く叫んだ。
その瞬間、メロスはまた方向を間違えて――しばしば足元を見ながら、廊下をぐるぐる回り続けた。
「待て、メロス!何をしている?」
「いや、ただの気まぐれだ。私の怒りを込めた“信じる心”を示すためだ!」
王はその言葉を聞いて、さらに困惑しつつ、メロスが迷子になったのを見守るしかなかった。
そして、再び──メロスは王の玉座を通り過ぎ、王の寝室に入っていった。
「……メロス、それは違う部屋だ。」
「何!?」
「そっちが王の寝室だよ。」
「またかぁ!!」
メロスはあわてて戻ってきたが、またしても逆方向に足を進める。ついに王が叫ぶ。
「おい!いい加減にしろ!さっきから三回も通り過ぎて、何が目的だ!」
「信じる心を!」「いや、今何を言ってるんだ、俺……」
メロスはその場で足を止め、頭を抱えて動かなくなった。
王は、あきれて肩をすくめる。「お前、いったい何をしてるんだ」
メロスは立ち上がり、真顔で言った。
「私は今、君の信じる心を試しているのだ。お前が“人質”を取らない限り、この試練は終わらんぞ!」
王はため息をついた。「……もう仕方ない。だが、頼むからそのひもをどこかに仕舞え。まじでどこから取り出したんだ、それ」
メロスは無視して、ひもをぐるぐる巻きにしながら言った。
「それで、君の信じる心を証明するため、私は今から―」
王「いや、お前、もうその手を下ろせよ」
「いいえ、これが私の最後の試練だ!」
王はあきれて目を見開いた。
「いや、待って。それ、本当に意味があるのか?」
メロスは大真面目な顔で言った。「もちろんだ。これが試練の全てだ!」
「お前、さっきからそのひもで何をしようとしてるんだ?」
「さあ、これから始めるんだよ」
その瞬間、メロスはようやく気づいた。
彼が一番大事なことを見落としていたことに。
「そっか!私が迷子だったのは…そのひもを使って迷わないようにするためだったんだ!」
そして、突然、メロスは立ち止まり、ひもで何かを結び始めた。
王が呆れ顔で見守る中、メロスは一心にひもを結び、ついには「これで迷子になることはないぞ!」と自信満々に声を上げた。
そして、メロスはそのひもを一周させ、床に縛り付けた。
「さあ、もうどこに行っても迷わない!これが私の信じる心だ!」
王はそれを見て、ついに笑いが止まらなくなった。
「……まじで言ってるのか?」
「さあ、信じる心を証明したぞ!」
――そして、数時間後、メロスが王の玉座にようやく辿り着いたとき、王はさっぱりとした顔で言った。
「メロス、お前、方向音痴のくせに、信じる心だけは驚異的だな」
メロスは真顔で返事をした。「もちろんだ、王よ。私こそが正義を貫く者、迷子になりながらも…信じる心を証明して見せる男だ!」
王はしばらく沈黙してから、最後に言った。
「信じる心って、いったい何だ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます