第2話
ランチを終えてオフィスに戻ると矢木さんが鎌田未沙部長と話している。
矢木さんは私と目が合うとそそくさと移動しようとするが私は前を通せんぼする。
「矢木さん!今から現場ですか?!」
「え、うん。今からエアコン清掃」
矢木さんと私はサンスピードという会社の生活支援事業部っていう部署で働いている。
主な事業内容は家事代行サービスで、私は営業部。
矢木さんは家事代行サービスの中でも、エアコン清掃やゴミ屋敷清掃、引っ越し、不用品回収など、ハード目な家事を担当する、『実務部清掃課』に属してる。
通称、なんでも課。
「矢木が今から行く現場、このみちゃんが取ってきた仕事だよ」
鎌田部長の言葉に矢木さんは笑顔を私に向けてから、ハッとしたように執務室から出ようとするから私も慌てて追いかけた。
「矢木さんっ!なんで逃げるんですか!」
「逃げてる訳じゃないけど、湯崎と仲良くしてると色んな人に詰められるんだよ」
私と仲良くしてると、詰められる……?!
それって皆んなから嫉妬されてるってこと?!
「矢木さん、やっぱりモテるんですね……」
「え?!いや、ちがう。そうじゃな、」
「矢木じゃーん。
……と、誰?となりの可愛い子」
別事業部の課長クラスの女性、井筒さんが私を見て矢木さんに尋ねる。
井筒さんはコスメ販売の仕事をしていて32歳の綺麗なお姉さまだ。
私はもちろん、知っている。
「うちの事業部の新卒、湯崎です」
頭を下げると井筒さんは笑ってから矢木さんのことを面白そうに見つめる。
「矢木ー。可愛い子たぶらかすと、豊橋が怒るよー?」
……え?!なんで?!
なんで、矢木さんが私をたぶらかすと豊橋さんが怒るの?!
矢木さんはつまらなそうに笑うと私の肩を軽く叩いて、執務室に戻るように促す。
気付いたけど、一旦無視!!
「井筒課長!
私、矢木さんにたぶらかされてます!」
「はっ?!おい、まて湯崎!
まって彩乃さん、誤解!誤解!」
「なんで矢木さんは豊橋さんに怒られるんですか!!」
井筒課長は面白そうに私たちを見比べた。
そして、さっき矢木さんがやったみたいに私の肩を軽く叩く。
「世の中には知らなくても良いことが沢山あります。お仕事戻りましょ」
呆然とする私を残して井筒課長は行ってしまう。
泣きそうになる私に矢木さんは慌てたように否定する。
「ちょっと待て、湯崎!すみれとは何もない!」
「すみれ……、すみれ呼び……」
「いや、ちが……、あぁ、時間ない!
とにかく何もねーから!
変なこと誰にも言うなよ!特に未沙部長とか!」
そういえば矢木さんって、鎌田部長のことも未沙部長って呼ぶよな……。
「わかりました!」
「よし、じゃあ、」
「じゃあ私のことも、このみって呼んでください!
呼んでくれないなら、このことを全て部長に報告します!
豊橋さんのことも部長から聞きます!」
そう言ってから私は頭を下げて執務室に戻った。
「おかえり、このちゃん。何してたのー?」
後ろの席の亜子さんが聞いてきた。私は首を横に振る。
「矢木さんが私のこと、湯崎って呼んでたら教えます!」
亜子さんは不思議そうにしてから頷いて、エプロンを持って担当の家に向かった。
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