レシピ11
第22話
「先輩方、仲直りしたんですね!」
翌日クラスに来た中野くんが私達を見てそう言った。
「……本当、しつこい」
「だっておれは大澤先輩のファンですから!」
隣で笑って話を聞いてたら私に向き直る。
「本宮先輩っ!
あの日、俺、先輩に何もできなくて……」
「あ、良いんだよ?私の方こそ、ごめんね?」
私が笑いかけると制服のポケットを探ってから市販のキャラメルをくれた。
キャラメルは私の一番好きなお菓子。
「これ、せめてものお詫びです」
私が受け取ろうとすると和政が取り上げる。
「いつきって本当良い度胸してるよな」
気まずそうに笑う中野くん。
「別にそんなつもりじゃ……」
「じゃあどんなつもり?」
怖い和政を置いといて私はキャラメルを受け取る。
「ありがとう、中野くん」
「はいっ!では、失礼します!」
あ、大澤先輩!
今週のライブ、楽しみにしてます!」
元気に手を振る中野くんに手を振り返していたら和政に手を降ろされる。
「なんかあんた達、今日やたら仲良いね?」
結奈に言われて和政がゆっくり手を離した。
「……ね、しおり。
今週のライブだけどさ」
結奈は上手に話を変えた。
「大澤と一緒に少し早く行って楽屋にいなよ」
「そのつもりだから」
和政の言葉に結奈はため息をついた。
平気だって言ったのに、和政は崎本さんを気にして提案してくれた。
「それで俺からあの子に話す」
何だか真剣すぎる和政を不謹慎だけれど可愛いと感じてしまう。
「だからライブの日は極力、俺から離れないで」
まだ一週間もあるのに、すごく綿密に計画する。
「あの……かずまさ?
そんなに真面目にやらなくても……」
「真面目に決まってんじゃん」
私の言葉を遮るように厳しく言われてしまった。
◇◆
そしてライブの日。
「しーおりー!」
スズが私に飛びついてきた。
「スズー。キーボード繋げー」
「はーい!」
流星先輩の声に元気に答えてステージに戻る。
「しおり、見てみて!」
ステージの上でも私に話してくれるスズを見て福本くんがスズに代わってキーボードをつなげた。
「……すず、良いの?」
はっ!!と、振り返り急いでキーボードに向かう。
「ふくちゃん!ごめんなさいっ!」
福本くんはスズにニコッと笑った。
「大丈夫だよ。本宮さんと話してて」
スズがキーボードに戻ろうとした時、流星先輩がスズの肩に腕を回す。
「もう開場まで一時間だろ?スズ、買い出し行くぞ」
流星先輩がそう言ってスズの肩を組もうとしたら。
「詩織と行きたいです」
私の腕を組んでくれた。
ショックそうな流星先輩。
「詩織ー、行こー」
「え?でも……」
流星先輩を見ていたらスズは楽しそうに笑う。
「あぁしてるだけで本当は良いって思ってるよ」
そしてそのまま会場を出ていった。
近所にある小さなスーパーでスズはいくつかの飲み物とお菓子を買った。
「あ、スズちゃん。
今日は流星くんとじゃないんだねー」
レジにいたおばさんがスズにそう話しかける。
「おともだち?」
そのおばさんは私を指して聞いてくる。
「はいっ!
詩織はギャラスタのファンクラブ会員No.1なんです」
「あら、そうなの?」
おばさんの笑顔に笑顔で頷き返した。
そしてお会計し終えて袋につめていたら。
「しおりさん」
名前を呼ばれて、ゆっくり振り返る。
「どちらさまですか?」
隣でスズが笑顔で聞いた。
「崎本さん」
私の言葉にスズの笑顔が歪んだ。
そっか、スズは崎本さんと初対面か。
「……どうしたの?」
「別に意味はないです。
歩いていたらあなたが見えたので」
そしてスズを一瞥した。
「あなた、キーボードの方ですよね?」
スズが恐る恐る頷く。
「何であなた、こんなところで弾いてるんですか?
本当はもっと上手いんですよね?」
「ギャラスタのこと、悪く言わないで下さい」
スズは小声で呟くように言った。
「だって確かあなた坂本鈴音さんでしょ?」
スズがビックリして顔を上にあげた。
「知ってますよ。
ピアノコンクールで大失敗した坂本さん。
私、あの場にいたんで」
そして崎本さんは笑った。
「あなたも逃げてる人の一人なんですね」
「俺の仲間と彼女いじめないでくれる?」
顔を上げたら和政が立っていた。
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