第21話

和政がふと私を見た。



「だって和政はお母さんやお父さんを大切にしてるじゃない」



私は思う。


本当に逃げているならまず自分の置かれてる環境に文句をつける。



「和政はちゃんと現実と向き合って、今はドラムを頑張ってるじゃない」



そう言った私に和政は笑いかけた。



「ありがとう」



和政の話を聞いても、何だかあんまり世界が違うとかは感じなかった。



「それに俺は桐高行って良かったって、すごい思ってる」



そして私をゆっくり抱きしめた。



「ギャラスタや詩織に出会えたから、これは俺にとって正しいんだよ」



低くて優しい声が耳をくすぐる。



「逃げてても逃げてなくても、関係ない」



そして唇に優しく触れた。



「……和政」



唇を離した時に同時に名前を呼んだ。



「私は和政が好きだから。


だから例え身体が目当てでも、遊びでも良いからね」



そしたら和政が眼鏡を外して、もう一度私の唇に触れた。



今度は深く、キスされる。



苦しくなって目をギュッとつぶると和政が唇を離して優しく言う。




「おれ、一目惚れだったんだ。


最初はただ可愛くて、好きだった」



私も一目惚れだったから、一緒だったんだな、ってビックリした。




「詩織の眼鏡も黒髪も、綺麗な指も細い腕も、俺のものにしたくなった」




そんなこと言われたの初めてで体温があがる。



「だけど詩織を知って、料理上手なところも、鈍感なところも、優しくてたまにケガして危なっかしいところも、全部が好き」


「……かずまさ?」



「もちろん、身体目当てじゃない。

その言い方は間違ってるから」



そして私を抱きしめ耳元で囁く。




「身体も、目当てなの」



腕を引き立ち上がる。




「部屋、行こ?」



和政のその不安げな目を愛しく思った。



部屋に入ると和政にゆっくりベッドに倒された。



何も分からなくて緊張する。



「……緊張する」



正直に言ったら和政は少し笑った。



「平気。大丈夫」




そして優しくゆっくりキスされた。




今までにないくらい深くてゆっくりで、だけど激しくて付いていけなかった。




唇が離れた時、苦しくっていっぱい息を吸った。




「かずまさ」



名前を呼んだら頬を手で包まれてまた、キスされた。



そしてそのまま手で、ボタンを外される。




下着も簡単に外されて、はずかしくなって顔を背けた。


「しおり、」


名前を囁かれて髪に指を通す。



それだけで今日はなぜか背筋に不思議な感覚が走る。



胸を触られて声が漏れて恥ずかしくなって口を閉じたらそのまま手をゆっくり、下に下ろしてく。



だって、普段お腹や太股なんて触られたことなかったから。



何だか怖くなってきて和政の肩を掴んだ。



「大丈夫、だから」



優しくキスしてくれた。




そうされると落ち着くのはいつもの和政が帰ってきた気持ちになれるから。



少し目を開けたら和政も裸で。



「かずまさ、」



名前を呼んで私の方から唇に触れた。




互いの唾液が糸を引く。




「……しおり」



唇を離したら名前を呼ばれて、私は息を整えて見つめる。



「嫌だったら言って良いから」



そう呟いてもう一度、キスされた。




痛かったけれど、でも和政とそうなれるなら別にそれでも良かった。




すごく、愛しく感じて喋ることはできなかったけれど、愛してるってすごく思った。


和政もそう思ってるって、そう思えた。



これからもズット一緒にいれるって強く感じた。



◇◆



「……次のライブに崎本さんも来ると思う」



私の隣で横になり和政が言う。



「その時、ちゃんと話つけるから」


「良いの、別に。もう、大丈夫だよ」




私がそう言うとゆっくり抱きしめた。



「俺は大丈夫じゃない」



和政の心臓の音がすごく落ち着く。




「……お腹空かない?」


「空かない」


そう言いながらお腹を鳴らす。



「……空いてるんじゃない?」


「だって詩織疲れたでしょ?」



気遣ってくれた和政をまた、好きになる。



「大丈夫」



好きだから少しくらいは無理できる。



和政の為なら別に大抵のことは我慢できるけれど。



「……ねぇ、和政?」



私は服を着ながら言った。


「ん?」


「ずっと、側にいてね」



そう言って振り返った私にまた、優しくキスした。




「詩織がウザがるほど側にいるよ」



私はもう、その言葉だけで十分幸せだった。

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