第14話
転びはしなかったけれどビックリした。
「あんた、本当ムカつく!」
そしてハッとして手をはらう。
「言わせてもらって良いですか?」
私のことをキッと睨んだ。
そして、すぐに笑う。
「あなたみたいな庶民、大澤くんはただの遊びだと思ってますよ」
その自信満々な断言に少しドキッとした。
「……あそび?」
「あなたは大澤くんの何を知ってますか?」
頭に浮かんだのは和政の優しい笑顔とドラムを叩く姿と食べてる時の顔。
「あなたの知ってる大澤くんは大澤くんではありませんよ?」
そして私に和政の写真を見せてくる。
「これ、撮ったの……?」
「大澤くんが話してる相手、誰か知っていますか?」
和政は写真とか撮られるの、あまり好きじゃないのにな……。
「また、上の空ですか?」
写真を突き付けられた。
慌てて写真を見てもその人が誰かはよく知らなかった。
「国会議員です」
そう言われてもいまいちピンと来ない。
「大澤くんの実家は今はまだそこまで大きな店ではないけれど、将来的により幅広くチェーン展開されると期待されてる会社なんです」
その話を聞いても何も言えなかった。
「私の父は大手化粧品メーカーの社長秘書なんですよ」
そもそも社長秘書とかもよく意味が分からない。
そんな私を見ていた崎本さんはまた、笑って言ってくる。
「何も分からないですか?」
「うん……。
ごめんね、崎本さん。殆ど意味が分からないの。
あ、その……これは嫌味とかじゃ……」
「私が嫌味を言ってるのも分かりませんか?」
駅の階段を上りながら崎本さんは私を見下ろす。
「あなた、どれだけバカですか?」
はぁ、とため息をつき写真を鞄にしまった。
「きっと大澤くんもあなたがバカだから、一緒にいて気楽なんでしょうね」
その言葉には少し少しだけ、引っかかった。
「あの、崎本さん。
確かに私は崎本さんに比べたらバカだし無能だと思う。
だけどその言い方だと、私と一緒にいる和政もバカってことになっちゃう気が……」
すると崎本さんは鼻で笑う。
「大澤くんはバカですよ」
そうもハッキリ言われると言い返す言葉もすぐには見つからなくなった。
「バカだから逃げて、あなた達の低いレベルで行動してるんですよ」
「和政は逃げてないよ?」
「逃げてますよ」
なんだか和政をすごく悪く言われてる気がする。
この子、本当に和政のことが好きなのかな?
「あなたが大澤くんをおかしくしたんでしょう?」
私が乗った電車に崎本さんも乗る。
同じ方向なのか、それともまだ私に話したいことがあるのかどっちなのかは分からなかった。
「あなただけじゃなくて、今日あのステージで演奏したり歌ったり、あなたのお友達や先輩。
あの人達みんな大澤くんをおかしくしてる原因の一つです」
「ギャラスタや私の友達はみんな、いい人だよ」
「大澤くんにとっては悪い人なんですよ」
崎本さんと話してるのはもう、疲れた。
だって和政を悪く言ったり結奈や蘭ちゃん、ギャラスタや野上先輩や伊達先輩のことまで侮辱するから。
そう思って何も言い返さないでいたら私のことをまた下から上にダルそうに見る。
「大澤くんにとってあなたは所詮、欲求を満たす為の遊びでしかないんですよ」
また、遊びって言われてしまった。
「私なんかより可愛い子、沢山いるもの。
遊びならそっちに行くって思うんだけど……」
「自惚れないでください」
どうしてこの子はこうも淡々と話すのだろう。私をまた鼻で笑う。
「飽きたら捨てられますよ」
そして崎本さんは電車を降りかけた。
「キスしたりHしたりして飽きたら捨てますよ」
座席を立ち上がり捨て台詞のように崎本さんは、吐き捨てる。
「せいぜい焦らして、飽きられるの先延ばしできると良いですね」
私は独り、電車に残される。
車両には私以外にニ、三人しか乗っていなくて、きっと今の話は聞かれてただろうな、とふと思った。
冷静になろうとしても何だか、なれない。
崎本さんの言ってることが何だか正しい気がしてくる。
そしたら悲しくなってきて、和政の声が聞きたくなった。
だけど電話をかけても繋がらなかった。
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