レシピ5
第13話
ライブが終わって野上先輩が私達の所に来る。
「今日の打ち上げ来るよな?」
「はい。詩織も行くでしょ?」
私はその日、親に早く帰って来るように言われていた。
「あ、今日はちょっと……」
私は頭を下げて誘いを断る。
「分かった!じゃ、またなー」
野上先輩に手を振られ私は頭を下げて一人で歩く。
楽屋口の前にはすごい人だかり。
……すごいなぁ、あんなに有名になって。
前、ライブハウスの人が月一じゃライブ足りないと、言っていたのをスズといる時に聞いた。
「あ、本宮先輩!」
その人だかりから中野くんが私に声をかける。
中野くんは何人か友達と来ていた。
「先輩!
今日も大澤先輩は超イケてましたね!」
中野くんはキラキラした目を私にむけてくる。
「うん、そうだね」
「もうヤバいっす!
あんなにかっこいい人、この世にいないと思います!」
中野くんはその気持ちが大きすぎて、いつも和政にはハッキリと伝わらない。
「和政に言っておくね」
「え?先輩、帰るんですか?」
中野くんが不思議そうに私に聞いてきた。
「うん。今日は用事があって」
中野くんが私に頭を下げる。
「おやすみなさい!お気をつけて!」
私は手を振り帰り路を歩く。
五月になって日が沈むのも遅くなってきた。
時計を見ると六時半。今日は比較的早く終わったな。
「詩織さん」
ぼーっとしてたら崎本さんに話しかけられた。
「崎本さん。今から帰るんですか?」
私の言葉に頷く。
「良かったら一緒に帰りますか?」
「タメ口で良いですよ。私のが年下なので」
崎本さんといると心が引き締まる感じ。
「じゃあ、そうさせてもらうね」
「あの、詩織さん」
突然だったから少しビックリした。
崎本さんはなぜか、さっきより笑ってる。
「大澤くんが好きですか?」
『大澤のこと好きだよ』
結奈の言葉が一瞬、浮かんだ。
「えっと―」
「私は好きですよ」
また、言葉を遮られてしまう。
「私は大澤くんのこと、好きですよ」
笑顔でそう言う崎本さんが少し、怖かった。
「そう、ですか……」
「タメ口で良いですって」
そして崎本さんは、とうせんぼするみたく私の前に立つ。
「詩織さんってどうやら、ものすごく鈍くてお人よしみたいなのでハッキリ言わせてもらいますね」
崎本さんからは少し甘いにおいがする。
今まで気付かなかったけれどバニラの香り。
「崎本さん、お菓子作るの?」
思わず尋ねた。
「作りません。あなたじゃあるまいし」
冷たく言われる。
どうして私がお菓子作りが好きなことを知っているのか少し不思議に思っていたら私の気持ちを察したようだ。
「雅志くんから聞きました。
兄さんの彼女はお菓子づくりが好きな素敵な女性だって」
それから私のことを舐めるように見た。
「どこが素敵なんでしょう?」
私は口を開きかけたけど、また遮るように話し出される。
「喋るのもトロくて鈍感でバカで地味で。
あなたのどこが素敵なんですか?」
事実だなぁ、と思った。
それにこんな短時間でよく、私がトロいのとか分かったなぁ、って思った。
「崎本さんってすごく人を見抜く力があるね」
私がそのままの気持ちを言うと崎本さんが私のことをドンッと押した。
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