君のために歌おう。~軽音楽部の場合~

第1話

16歳、高校二年生の5月。

坂本鈴音、重大な現場に居合わせました。



……どうしよう、気まずい。

部活が終わりかけた頃、メンバーの先輩に新しい譜面渡しといてって言われた。


「良いですよー!

わたし、調理室行ってきますっ!」




親友のお菓子もらって、メンバーのドラムに譜面渡して、先輩に褒められて、一石三鳥だーってニコニコしてたのが数秒前。



「……!!」



親友とバンドのドラマーがキスしていた。



……あぁ、どうしよう。



そもそもこの二人のキスを見てしまったら、なんだかドキドキしすぎて立ち上がれなくなりました。



でも……、詩織、羨ましーなぁ。


親友である本宮詩織はドラマーの大澤和政と、ずーっと両想いでした。


私はどっちからも相談されてて、どっちにも『上手くいくよっ!!』って教えてあげてたのに、『向こうが自分を好きなわけない』って両者一点張り。



どーしたものか、と思っていたら。


キス、ですか。



今時の高校生は展開が早すぎて、ついてけないよ、まったく。





「スズちゃーん」



私がその声に顔を前に向けると、大好きな大好きな先輩。



「!……せんぱい、しーっ、ですっ!」



私は嬉しさで飛び上がりたくなったけど、グッと堪えて先輩に静かにするよう伝える。


「……?う、うん、分かった」


不思議そうにその場に止まった。

私は大急ぎで立ち上がり先輩の方へ走る。



「せんぱい!

とりあえず防音室へ戻りましょうっ!」


「え、うん、良いけど……。大澤に楽譜渡せた?」



私の脳裏にさっきのキスシーンがスローモーションで浮かび上がり、顔がバァーっと赤くなるのが自分でもわかった。



「……お、大澤は、その……」


「どーした?スズ?」



そう言って私の顔をジッと見る先輩。


いや、ちかい!先輩もちかい!

さっきの詩織と大澤くらい近い!




「せ、せんぱい……あの!大澤には明日渡します!」



先輩はそんな私をしばらく見つめ、ニヤーって不審な笑みを浮かべた。


そして言う。




「大澤としおりん、キスでもしてた?」




「……!いや!えっ……?!はっ!……」



戸惑いを隠せない私を先輩は楽しそうに見つめる。



「よし、防音室へ戻ろう」



私の手をギュって握って。



「ちょっ!せんぱい!ダメですっ!」


「えー?なんで?」



先輩はそう言いながら、またニヤーってなって手を離す。



心臓がバクバクする。

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