部活で始まる僕らの恋
斗花
絶妙なさじ加減~調理部の場合~
第1話
ほら、私って地味だから。
もし部活が違ったら、あなたは私の存在にすら気付いてなかったかもしれない。
ううん。きっと、気付いてなかった。
◇◆
「本宮さん、今日は何作るの?」
「今日はマフィンにしようかな」
私がそう答えると、あなたは少しだけ微笑む。
「やった。でも甘くしないでね」
私の所属してる部活は調理部で、部員は殆ど兼部だし活動日も週二回だけ。
別に忙しくもないし、みんな趣味でやってるような適当な部活。
先輩たちは四月に入ってスグに引退しちゃうし、後輩も四人しかいない。
……四人入っただけでも奇跡なんだけどね。
「やっぱり一年来ないなぁ……」
「そーだね」
「あいつら出来上がった頃に『遅くなりましたー!』ってちゃっかり喰いに来たりするんだよなぁ……」
大澤くんの言葉に私は思わず笑う。
二年生はと言うと、私と私の隣りにいる大澤くんだけだったりする。
大澤
兼部してる軽音楽部ではかっこよくドラム叩いてるし、それなのにふわーって優しい雰囲気。
学年でも、とてつもなくモテる。それなのに。
「……大澤くんて、」
「ん?どーしたの?」
優しく聞いてくれた大澤くんに私は泡立て器を止めずに下を向いたまま尋ねた。
「どうして調理部に入ったの?」
大澤くんは少し止まってから、ゆっくり口を開いた。
「……俺、食べるの好きだから」
「でも、うちの学校の調理部お菓子作り中心だよね??」
「そーだね」
「大澤くん、甘いの苦手だよね?」
私が少し遠慮気味に聞いたら、大澤くんはうーん、て考える。
「本宮さんの作ったお菓子は甘すぎないから好きだな」
すきって言葉に、ちょっとキュンとした。
「……そっか。
軽音楽部も大変なのに、いつもわざわざ来てくれてありがとう」
そう言ったらニコーって笑う。
「本宮さんも、お菓子いつもコーヒー味にしてくれてありがとう」
その笑顔にまた、キュンとした。
大澤くんが甘いのがあんまり食べれないって知ってから、私はお菓子を作るときコーヒー味のと普通の友達用と二種類作るようになった。
「本宮さん、これ切ったよ」
そう言って私に材料を見せてくる。
大澤くんは料理も上手だ。
「ありがとう、じゃあ型に流そうか」
少しずつ型に流してる間に大澤くんは使った調理器具を片付けてく。
その横顔を見てたら恥ずかしくなった。
私なんて、眼鏡をかけて、色気もない黒髪で、地味な作業が似合って、部活ない日は図書室で友達を待って。
たまに部活なくてもここで料理して、作った料理を食べてくれるのは女友達ばっかり。
こんな私に好きって言われても、きっと嬉しくない。
そう思いながらオーブンのボタンを押した。
二年になって大澤くんとクラスも同じになれたけど、クラスにいる時に話したことはないし、女の子達も私なんてライバルとも思ってないから、いつも『これ渡しといてっ!』ってプレゼントを渡される。
今日も鞄の中には女の子たちからの、大澤くんへのプレゼントが入ってる。
でも大澤くんはプレゼントを受け取ったことがない。
みんな、かわいい人ばっかりなのに。
大澤くんはプレゼントだけじゃなくて、調理部を覗きに来た女の子にも、クラスにわざわざ来る女の子にも、すっごく冷たい感じ。
「大澤くん、これ!」
私は一通り片付け終えてから鞄の中身をゆっくりと少しずつ取り出す。
「あー……。でも、俺さ、甘いのは……」
そう申し訳なさそうに言う大澤くんに私は笑顔で言った。
「大丈夫、みんな大澤くんが甘いの嫌いって知ってから気をつけてるって」
それなのに大澤くんは今日もプレゼントを受け取らない。
むしろ少し怒ったように言った。
「……いいよ、いらない。
なんで甘いの嫌いって言っちゃったの?」
「でも……、みんなきっと頑張って作ったよ?」
どうせ私は上手くいかないんだから、他の子に幸せになってほしい。
そう思って、一生懸命説得する。
「……本宮さん?」
突然耳元で言われて少しビクッてなった。
「俺、甘いの、好きじゃないんだ」
………?
「うん、知ってるよ。だから皆のやつ甘くないよ」
「これでも甘すぎる」
その少し色っぽい声にまた胸がキュンてなった。
「大澤くん、なに言ってるの?まだ食べてないでしょ?」
私は頭にハテナを浮かべたまま聞いた。
「うん、でも、分かる」
そう言って顔を伏せた大澤くん。
結局受け取ってもらえなくて、二人でお茶を入れて飲んだ。
しばらくしてから大澤くんがまた変なことを言った。
「本宮さん、あのさ。俺、眼鏡フェチなんだ」
「……へー……」
どうリアクションするべきなのか分からなくって、でも私も眼鏡かけてるから少し嬉しかった。
「あと、黒髪フェチ」
サラッと言った大澤くんに、またキュンってなって、それで私も黒髪だったから嬉しくなった。
「てゆか、本宮さん、あのさ……、」
そう言って大澤くんが立ち上がったら、チンってオーブンが鳴った。
「できたみたい」
私がそう言うと椅子に座りながら、そうだねって小さい声で呟いた。
「うまそー!」
マフィンを見ると元気にそう言う大澤くん。
「早く食べようか」
私がそう答えるとニコーって笑ってバンザイした。
そしてパクパクと一つ食べ終えてから大澤くんは言った。
「やっぱり俺、このマフィン好きだ」
また、好きって言葉にキュンってなる。
その気持ちを押し殺して言った。
「じゃあ大澤くん、このプレゼントも……」
すると大澤くんは立ち上がり、早口で喋り出した。
「違う、それじゃ甘過ぎなの。
このマフィンが好きなの。
このマフィンしか食べれない。
この砂糖の量が好き。
このコーヒーの味が好き。
この包み紙も好き。
っていうか!
このマフィンを作った子のことが、すき」
そう言って私の目をジッと見る。
息を切らしてジッと見る。
キュン、じゃなくてドキッ、ってなった。
「……え?」
「俺、これからも本宮さんのお菓子しか食べられないから」
私の手からチョコレート味のマフィンが、一つ机の上に落ちる。
「……わたし、も……。
大澤くんにしかコーヒー味は作らない。
わたしも……、大澤くんのこと……すき」
そう言ったと共に口にはなんだか不思議な感触。
甘くって、苦くって、チョット酸っぱい気もして。
**
「本宮さんて鈍感?」
「えっ、結構味の違いとか分かると思うけど……」
「……」
2010.01.09
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます