まれに道にも苺はなる

第7話

運動会練習が始まった。


私がくじ引きで奇跡的に獲得した窓際一番後ろの席から体育の授業をするゆきくんが見える。


ゆきくんは運動神経が抜群だから、リレー学年選抜、200m走、走り高跳び、騎馬戦に出場する。


生徒一人について出れる競技は四つ。



要するに、目一杯出るってこと!



しかも応援団なんてやったらファンが増えちゃうなーって、それが最近の私の悩み。



「おい米倉、当たってるぞ!」



隣の席の男子に小声で言われてハッと立ち上がる。


「あっ!す、すみません!」


教科書を読み終えて席につくと校庭のゆきくんが丁度高跳び中。


155cmを軽ーくとんでる。



起き上がったゆきくんとたまたま目が合うと、笑顔で手を降ってくれた。


私、今の気分なら180cmくらい跳べそう!



……まぁ、実際の記録は90cmだけど。




「よねくら!前、向けっ!」



先生に罵声を浴びせられたが何にも怖くないし!



「……はーい」



口でこたえて、また窓を向いたらシャーッてカーテンを閉められた。



「お前、そんなに兄貴が好きなのか?」



「?!……違いますっ!」



超、心外だった。


秀のことなんて見てないもん!

そもそもあいつなんて152cmで引っかかってたし!



「あんなクズなんて見てるだけで視力落ちますっ!」



私のあまりの殺気に先生もビビって教壇に戻った。



その日の放課後の応援練習でゆきくんは私に話しかけてくれた。



「蘭ちゃん、だいぶ声出てきたね」



私はゆきくんに褒められたのが嬉しくて大きな声で返事をする。


「もっと、出るように頑張る!」


「……うるせーな、サル」


秀がわざと聞こえるように言ってくる。


「秀、お前な……」


ゆきくんがバカ秀の頭をパシッと叩いた。


「いって!何すんだよ?!」


「皆の前で蘭ちゃんにそーゆー言い方するな」



さすがゆきくん。女心をよく分かってる!



「フクはあいつに甘すぎるんだよ。

お前が思ってるほど、あいつはかわいい奴じゃない」



秀も皆が思ってるほどかっこいいやつじゃないよ!



……と、心の中で叫び私は練習に戻った。



「分からない所ある?」


愛子先輩が私のところへ来た。



「いえ、大丈夫ですっ!」


「そっか。はるみちゃんは?」


隣にいた晴海にも同じように話しかける。


「あ、いえ。大丈夫、です」



心なしか、はるみの様子がおかしかった。

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