アサシンガール アリア・ナイトレイドは全てを隠す
白鷺雨月
第1話 生き残った少女
アメリカ東部の都市シャドウリッジの殺人課の警部エリオット・グレイはその光景を見て、吐き気を覚えた。
さすがには嘔吐しなかったのは数々の修羅場をくぐってきただけのことあある。
新米の警官などは事件現場からはなれて、じっさいにもどしたりしていた。あとで叱らないといけないとエリオットは彼らを見て、そう思った。思えば新米刑事だったころの自分もああだったなとも彼は思った。
事件現場はヴィクタービルと呼ばれる地上四十階建ての最上階でおこなわれた。
最上階はヴィクタービルの持ち主であるヴィクター・クロウの自室となっていた。
ヴィクター・クロウは表向きは資産家で投資家であり、不動産王の異名をもつ人物であった。年齢は五十代半ばで金色を短く刈り込んだ髪をした精悍な男であった。元海兵隊出身で自身も格闘技に精通していたという。
そのヴィクター・クロウの裏の顔はシャドウリッジを裏で牛耳るマフィア「ブラックスパイン」のボスであった。
そのヴィクター・クロウが彼の自室で殺された。
しかも派手にである。
ヴィクターのテニスコートの何倍もある自室で死んでいた。
ヴィクターを守るボデイガードが二十人と幹部十二人も一緒にである。合計三十三もの死体がその部屋に転がっていた。すべての死体が数十発の弾丸に撃ち抜かれ、絶命していた。
穴だらけの死体を見て、エリオットは頭痛を覚えた。
いつかこいつらを刑務所にたたきこんでやろうと思っていたが、それは永久にかなわなくなった。
ヴィクタービルの最上階は血と火薬の匂いで満ち足りていた。
誰かかがこの部屋でマシンガンでもぶっぱなしてこいつらを殺した。
その考えが頭に思いついた瞬間、自分はいつからコミックマニアになったのだと考えた。息子のサムがよく読んでいるコミックさながらではないか。
「グレイ警部、グレイ警部」
息をきらせながら、部下のリチャードが駆け寄る。
あいかわらず騒がしいやつだとエリオットはリチャードの童顔を見る。
額に汗を垂らしながら、リチャード・フォックス巡査はエリオットに報告する。
「生存者がいました!!」
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、リチャードはそう告げる。
リチャードの報告を受け、エリオットはその生存者がいるというクローゼットに向かう。クローゼットはエリオットの自室よりも数倍ひろかった。
エリオット警部は盛大に舌うちする。
クローゼットには何百着というブランド物のスーツが所狭しとかけられている。
スーツ一着だけでもエリオットの月収を簡単に越える。
エリオットは支給された、すでにくたびれて五年は着ている自らのスーツを見て自嘲した。
「警部、この子です」
リチャードが大声で叫ぶ。
そんなに声をださなくとも聞こえるというのに。
リチャードはこの子と言った。
彼の言葉通り、十歳ぐらいの黒髪の少女がクローゼットの隅でふるえていた。
黒髪の美少女はほぼ裸であった。
その小さな体にはバスタオルだけが巻かれている。
ヴィクターは好色な男だったが少女趣味はなかったはずだが。
「君、どうしてこんなところにいるのかね」
リチャードに抱き上げられた少女にエリオットはそう尋ねる。
「私はアリア・ナイトレイド……」
少女が名乗る。
少女の名前を聞いて、エリオットは思わず事件現場だというのに吹き出しそうになった。それはゴシップの域をでないが伝説の
謎の暗殺者アリア・ナイトレイド。
女性であるとうことしかわからない凄腕の殺し屋。
あまたの政治家、軍人、資産家をその手にかけているといわれている。
彼女に殺されたという人物すべてが裏であくどいことをやっていたので市民からは義賊ともみなされている。
犯罪者は裁判でさばかれなければいけない。
それがエリオットの信念であった。
いくら相手が悪いからと言っても殺してはいけない。
犯罪者には法の裁きをうけさせなければいけないのだ。
リチャードも少女の名前を聞いて苦笑している。
「警部、どうやらこの子はかなり混乱しているようですね」
黒髪の美少女をいわゆるお姫様抱きをしながら、リチャードは言う。
「それでは何かね、君がヴィクター・クロウをはじめとしたブラックスパインの幹部を全員暗殺したというのかね」
リチャードの質問を聞き、エリオットも苦笑した。
「ええっ、そうよ。私がマシンガンで全員殺したのよ」
淡々とアリアと名乗った少女は言うが、もちろんエリオットは信じない。
なぜならあまりにも馬鹿げているからだ。
それでもこの黒髪の少女が事件の関係者であるのはまちがいない。
エリオットはリチャードに命令して、少女を警察病院に移送させた。
翌日、エリオット・グレイ警部はアリアを名乗る少女が入院する警察病院を訪れた。事件のごたごたでエリオットは徹夜を強いられたので眠くて眠くてしかたがなかった。自室のおんぼろベッドがこれほど恋しいと思ったことはない。
病院の冷たい廊下を歩いているとエリオットは黒髪の看護師とすれちがった。
背の高い、スタイル抜群の女性だった。
看護師はエリオットの顔をみるとにこりと微笑んだ。
美人に微笑みかけられて悪い気はしない。
にやけながらエリオットが病室のドアをあけると警備の女性警官が床に白目をむいて倒れていた。どうやら気絶しているようだ。
そしてベッドには寝かされているはずのアリアはいなかった。
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