第16話 - ベルトに剣を帯びた天使

人生の中で、こんな長い三日間を過ごしたことはない。アクストン様はいる場合もとより彼はいない場合もそのエメラルド目はいつも私のことを眺めるような気がする。

必死に掴もうとしても、いつも逃げてしまう蜘蛛のように、アクストン様は都合の悪い時に邸宅の周りに現れる。

たまには、屋敷の使用人を遠ざけて、1人で問いただす。ただ害のない質問しかしないので、深く知ることはできない。その間に、私に2度そうしてきた。1度目は、私がこの屋敷に使用人として雇われた時について尋ねれて、2度目は、最近変なものを見たかと聞かれた。もちろん、吸血鬼や霊媒師の婆に会った時のことは言わなかった。だが、秘密を漏らしていないと信じているのに、不穏な気分が拭えない。

婆とウィリアムは、アクストン様の本当の姿は天使だと言った。だが、今のところ証拠には気づいていない。確かに彼は驚くほど美しく、訪問中の貴族として扱われていて、多くの使用人はその美しさからして女性だと信じている。何よりも、完全に人間のように見える。ウィリアムの吸血鬼の魔法のようなものを何も見せていない。


日曜日の朝になっていた。いつも通り、使用人と一緒に教区のミサに通う。同僚とあまり仲が良くないので、私は彼らより数分遅れて出かける。ちょうどボンネットの紐を結び終え、出発の準備が整ったところで、アクストン様の呼ぶ声が聞こえた。

「失礼、ヘイズさん。頼みたいことがある。教区へ行くのですね?道を案内してもらうために、私もご一緒させてもらえますか?」

おしゃれスーツを着ていて、そして彼のベルトには剣が付けられていた。重要な式で着られるのを見たことがあるような。

断ることなど到底できないので、同意するしかない。使用人の出口で、一緒に出かける。

意外にも、まるで私が貴族の淑女であるかのように、腕を取るよう促す。仕方なく腕を取ると、一緒に歩き始める。


いい天気の下、丘をゆっくり下って歩く。会話の話題は日常のことから、私がフレイヤ様を世話していた時期に変わった。

「ハーグリーブ家の若いお嬢様がどれだけ上手に優雅な花嫁候補を演じられるかによって、明るい将来が開けるでしょうね。」私の言葉には気をつけないと。フレイヤとハーグリーブ邸では、単なる侍女に過ぎないことを忘れちゃいけない。

「確かにそうですね。フレイヤ様は立派な花婿の目を引くことができるといいですね。」と答える。

「フレイヤ様は確かに美しい女性だと違いません、お父様はすでに素晴らしい求婚者を選ばれたとお分かりでしょう。結局、箴言の知恵の泉によると、『さあ、父親の話を聞くように、私の言うことを聞きなさい。知恵のある人になるために、私が教える真理を勉強しなさい。顔をそむけてはいけません』と言います。父親の知恵で導かれるのは美しいことですね。」

美しい表情にも関わらず、貴族と同じような傲慢な考えがあるようで、残念だ。心臓が熱くなってきた気がする。

「でも、マイ・ロード、エレミヤ書第17章5節と7節によると、『主はこう告げます。「いつかは死ぬ人間を頼りとし、心が神から離れている者は、のろわれる。」』と『だがわたしを頼りとし、わたしを望みとする者は、祝福される。』と言う訳ではないでしょうか?」

私の返事を聞いた瞬間、ほんの一瞬だけ、嫌な表情が顔に浮かんだように見えたと思った。反対したのは間違いだったのかもしれない。

しかし、その表情はすぐに笑みになっていた。

「面白い!聖書に詳しいメイドがいます!君の物語には、誰もが思っている以上のものがあるのかもしれない。」


教区に着くと、神父が入口で皆に挨拶をしている。

「あ、マイ・ロード、アクストン様。神の祝福がありますように。この小さな教区へようこそ。ご訪問の理由をお聞きしてもよろしいですか?驚きましたが、とても嬉しく思います。」

挨拶を交換しながら、私は脇に立っている。

「クレイデン神父、この地域には悪しき知らせを聞いたから来ました。ミサの後、お一人でお話しすることは可能でしょうか?」

やばい。アクストン様がミサの後に神父と話すなら、私も同じように話すのは怪しまれずにはいられない。アクストン様は私がフレイヤの出生証明書をコピーを欲しいと聞いたら、ロード・ハーグリーブに伝えると違いない。

ミサが終わる前に、アクストン様に気を散らす方法を見つけなければならない。

アクストン様が教区に入ろうとする時、神父は止めた。

「マイ・ロード、こちらは神様の家ですので、武器をお持ち込みいただけません。ですので、剣は外にお預けいただけますか?」

重い沈黙が頭の上に落ちてきた。アクストン様はクレイデン神父に強く睨んでいるが、神父の表情は変われない。

「おっしゃる通りです。思い出させていただき、ありがとうございます。」と言った。すると、ベルトから剣を離して、ドアの横に置く。

そして、私たちは教区に入る。

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