第23話 カレー、食う
三人による『ふよふよパズル』のゲーム大会が白熱し、あっという間に夕方に。食事の準備をと、下処理済みの野菜を油で素揚げし始める。
ちなみに優勝は雪姫で二位は俺、最下位が間戸だった。雪姫の飲み込みの早さに本気でビビる。間戸がこんどはあたしの家でやるぞ!と息巻いていたが、正直もう雪姫には刃が立たないんじゃないかなって思いました。
そうして殆ど雪姫が調理した野菜カレーが完成。席に着く。隣に雪姫、前に間戸が座る。
「では、いただきます……!」
雪姫に続き俺と間戸も手を合わせカレーに手をつける。
ふーっ、ふーっとスプーンに乗せたカレーを冷ます間戸。
(なんか色っぽい……)
口に入れた瞬間、
「めっっっちゃ美味しい!!」
と、間戸が目を輝かせた。彼女は手が止まらないといった感じにカレーをかきこみだした。よかった、間戸の口にあったみたいだ。
俺も一口食べてみる。味見してわかっていたけど、うん……やっぱり美味しい。
しかし、初めて雪姫が作ったカレーか。味は勿論美味いが、それ以上に一生懸命なあの姿を思い出すと胸が熱くなって感動が。やべ泣けてきそう……って、お母さんか!
セルフツッコミを入れつつ、その時ふと雪姫が無言なことに気がつく。どうかしたのか?と彼女に目をやると、
「〜〜〜〜ッッ!!」
と美味しくて言葉にならないようだった。そのスプーン捌きは凄まじく、あっという間に皿のカレーを平らげてしまい、おかわりへと席を立つ。フードファイターかよ。お前のアレは宇宙なのか?
「あ……そうだ」
「?、どうしたのアリス」
「いや、雪姫が全滅させる前にちょっと取り分けとこうと思って」
「カレーを?」
「そう。このタッパーにね」
「ん、持って帰るの?」
「まあそんなとこ」
その時、
「……タッパーじゃなくて、私の胃におさめたいんだけど……」
ぼそりと雪姫が悲しげにつぶやいた。
「食いしん坊過ぎるだろそれは」
「ふ、あはは、雪姫さんホントよく食べるねえ」
間戸は冗談だと思ってるけど、これガチだからね。今までずっと雪姫をみてきたからわかるけど、本気で言ってるからこれ。恨めしそうな雪姫の眼差しをスルーしてタッパーにカレーと米を入れる。
しかしながら悲しそうな彼女を放置して置くわけにもいかない。俺は代わりと言ってはなんだが代案をだす。
「こんどはオムライスつくろう」
「……!」
「だからいいでしょ?」
「わかった!」
雪姫、そんなにオムライス好きなのか。
「良かったねえ、雪姫さん。オムライス好きって言ってたし」
「うん!」
「ケチャップのやつ?それともデミグラスソース?」
「はっ、それは……」
「もしかしてどっちも好き?」
こくこくと頷く雪姫。なんかてっきりケチャップ派かと思ってたけど。
「じゃあどっちも作らないとだね」
「……!」
俺に視線を向ける雪姫。期待の眼差し。
「うん、作ろう」
「……と、とろとろの……!」
「とろとろね」
「……真ん中、ぱかって……!」
「ああ、切れ目いれて開くやつね」
「そー、それです……!」
肯定する気持ちが強いあまり頷くどころかブンブンと首を振る雪姫。ちょ、ヘドバンはおやめください!
「ふふ」
間戸がにこにことこちらをみている。
「ほんと仲いいねえ、ふたりとも。羨ましいなぁ」
「……羨ましい?」
「そーそー、アリスと雪姫さんの関係が羨ましい。だって二人付き合ってるんでしょ」
固まる俺。にこにこ微笑む間戸。そして、
(……えっ…………なに、その顔……)
火照っている微かに赤い頬。
透き通る青い瞳。
雪姫は頬を染めて俺をみていた。
どこか眠そうないつもの眼差しではなく、驚いたような……そんな表情で。
瞳を潤ませ、ただただ……俺の目をみつめている。
どうしてそんな顔をしているのかはわからない。
けど……
俺の胸は締めつけられ、苦しくなっていた。
……その、顔は……反則的に、可愛い。
認めざる得ないほどに、俺の心を惹きつける。
(って、呆けてる場合じゃない……!)
付き合うって、どういう意味だ……!?
「あ……え、えっと、間戸さん?私、女だから付き合うとか……ないんだけど」
間戸は俺が女装しているということを知っていて、秘密にしてくれと言ってある。なのに、なんで……。
「ん、あ……え?」
不思議そうな顔をする間戸。いやそれなんでお前がその顔なの!?こっちがしていい顔だろそれ!
互いの心内が読めず、俺と間戸が顔を見合わせていると、
「……つき、あぅ……」
微かな、吐息をはくような小さな声がした。
「でも、仲いい、ですよね……アリスさん」
照れながらそう雪姫は俺に問いかけた。
「え、え?……あ、ああ、うん。仲いいよ……」
照れながらそう俺は雪姫の言葉を肯定した。
「……」
するとなぜか、雪姫の顔がわずかに悲しそうな表情に変わる。……え、あれ……返事間違えた、のか……?
「……どうしたの、雪姫さん」
「ぁ……いえ、なにも……」
なにもって、あきらかに不機嫌そうにみえるんだけど……意味が分からず、戸惑う俺。するとスマホに着信が。ボーシヤ、つまり間戸からのメッセージだった。
『ごめん、アリスのこともしかして雪姫さん男だって知らないの?』
『知らないよ!言ったでしょ、活動のこと秘密だって!』
『あ、そーいう!てっきりSNSとかの活動が秘密って意味かと思った。だからアリスが男なのは雪姫さん知ってるものだと』
――そういうことか!確かにはっきりとは言ってなかったわ!危ねえ!
『あ、そっか。言葉がたりなかったね。こっちこそごめん』
『ううん、ホントにゴメンね。気をつける』
……とりあえずこれで、よし。焦ったわ、マジで。
ふと視線を感じた。雪姫がじっとりとした目で俺をみていた。……そーだよな、会話の途中でスマホいじりだすのはダメだよな。
「あ、えっと……雪姫さ」
「……うん……」
「や、なんでもないです」
これまでもムスッとすることはあった。けどこれは今までで一番の拗ね具合だな……一体原因はなんなんだ。全然わからん。
「……あの、間戸さん……」
雪姫が間戸に話しかけた。
「羨ましいって、間戸さんにも……そういう人がいるんですか」
間戸の想い人がよほど気になるのか。
「あ、うん……いるよ。その人もアリスみたいに綺麗な人でねえ。背が小さくて、ゴスロリの服が似合う子なんだよ。あたしなんかより全然可愛くってさ」
……ネコのことか。
「実は今日一緒に遊ぶ約束してたんだけど、キャンセルになっちゃってね」
「……ぇ……」
「あ、ドタキャンとかじゃなくてね。行けない可能性もあるからって事前に言われてたから」
なるほど……スマホを気にしていたのはあいつからの連絡を待っていたのか。ネコは家事や勉強、更にはバイトもしているみたいだからな。殆ど遊ぶ時間なんてないんじゃないか。
「でも、遊べないの寂しくないですか……」
「いやあ、まあ。けど、仕方ないよ。それも知った上で好きになってるからさ」
「……どうして、そんなに好きなの」
思わず聞いてしまった。
ネコの魅力は俺も知っている。けど、そんな寂しい思いまでして一緒にいたいなんて……例え俺が間戸の立場になったとしたら、とうてい耐えられそうにないと思った。だから、つい聞いてまった。
「……あの人にはね、あたし……人生を変えてもらったから」
そういって微笑む間戸は、懐かしむような慈しむような声で語りだした。
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