第22話 白熱
エレベーターをのぼり雪姫の部屋へ。インターホンをおすと部屋着になった雪姫が出てきた。
薄手のパーカーとショートパンツ。真っ白くて長い綺麗な脚が眩しい。
「……どぞ」
?、なんかよそよそしい?なにかあったのか?
「うん、お邪魔します」
部屋に入りリビングへ行くと間戸がソファーに座ってテレビを観ていた。彼女はこちらに気がつくと「やほ」と小さく手をあげる。
「やぁ。……怪我の具合はどう?」
「雪姫さんが手当してくれたから大丈夫。気が付かなかったけど、服の中も擦りむいてたんだよね……ほら」
ぺろんとシャツをかえし腹をみせる間戸。俺は瞬時に顔を背けた。いや俺男ですから、ヤバいですって。
俺のそのリアクションで間戸が気が付きハッとする。
「あ、そっか!アリス……ご、ごめんね、えへへ」
「大丈夫、なにも見てない」
嘘だ。一瞬だが白い何かが見えた。
「?」
雪姫は俺と間戸、二人のやりとりに首を傾げ不思議そうな表情を浮かべていた。そりゃそうだよ。雪姫からすれば俺は女なわけだから間戸の腹から慌てて目をそらすのは不自然だ。
それを誤魔化すようにさっそくカレーを作ることを提案する。教えながらということも考えると、今からつくるのが時間的にちょうどいいし。
「あ、あたしも手伝うよ」
「いや、怪我人だしいいよ」
「なにそれ、あたしそんな重症でもないんですけど」
「いやでもお客さんだしさ」
「ね、雪姫さんはどう思う?」
とうとつに間戸が雪姫へと話を振った。
「あ、えっと……その」
どう答えていいのかを思考し、もたつく。けれどそれを急かすこともなく間戸は雪姫の返答を待っていた。
「……あの、これは……間戸さんへの、お礼も兼ねてるから……その」
うん、とひとつ頷く間戸。
「出来上がるのを待ってて、ください」
「うん、じゃあわかった。美味しいカレーできるの待ってるね」
「……はい!」
なんか、ええですなぁ!二人のこの感じ非常にええですわ。俺がいない間になんかあったんすかねえ。いやぁ、仲良しになってくれてるみたいで嬉しい。
「あの、アリス……さん?」
「あ、うん。それじゃあキッチンいこう」
「はい、……うん」
?、なんだ?
二人でエプロンをして手を洗う。今日は料理するのでネイルも特にしてこなかった。関係ないけど、前に一度お店でやってもらったことがあるが、あれは気分が上がる。ネコと一緒にやってもらってSNSにあげたらふたりとも5万イイネくらいついたんだっけ……。
「アリス、さん……次はどうしましょう」
「あ、えーとそれじゃあ食材を処理していこっか」
「はい」
「んじゃ素揚げする野菜の下処理だね」
今日作るカレーはチキンカレーに素揚げした夏野菜を添える、野菜カレー。最初は雪姫はただのカレーでよくないですか?野菜必要?と言っていたんだけど、野菜を美味しくたくさん食べてもらうために俺が提案した。
ちなみにいうと雪姫は野菜が嫌いなんじゃなくてシンプルに面倒くさがりなだけだ。調理工程が少なめの簡単なのってなに?と最初聞いてきたのがその証拠。……っていうかお弁当に入れた野菜とか普通に食べてるし。
そんなこんなで野菜の下処理、鶏肉の切り分けが終了。雪姫がフライパンに火を入れ熱し始めた。ふと気がつくといつのまにか間戸が見学していた。
「そういえば間戸は嫌いな食べ物あるの?」
「んーん。無いよ」
「そっか、よかった」
「アリスは?」
「んー、私も特に無いかなぁ」
「そうなんだ。雪姫さんは?」
「あ、え……と、ない……」
「そっか」
……いやまて、ホントか?
瞬き多くね?視線も泳ぎまくってるし、ちらちらと俺をみてくるんだが。雪姫はテンパるとポンやらかす傾向が強い。火を扱ってる今それが発動すればとんでもない事になりそうだ。
「えー、雪姫さんホントに?怪しいなぁ〜」
冗談ぽく聞けば緩い空気になって言いやすいかもしれん。
「お、雪姫さんなになに?ホントはあるの?教えてよ〜」
間戸も軽い感じで聞いてくる。他愛ない雑談の雰囲気。雪姫も喋りやすい空気ができているはず。
「……ぇ……は……えと、そ、その……」
雪姫をみると劇画タッチの濃い絵柄になって眉間に皺を寄せていた。いや絵柄とかなにを言ってるか分からないと思う……けど、そう見えるほどの答えにくいことだったのだろう。とにかく凄い顔をしていた。
「あ、えっと、じゃあ好きな食べ物!雪姫さんなに?」
空気を読む間戸。これ以上は踏み込むのは危険だと察知した彼女は話題をそらす。流石ナイス間戸!!
「………ぁ……オムライス……」
ぽつりと答える雪姫。なぜかにやけながら俺をちらちら見てくる……なんやねん。
「あー、おいしいよねオムライス!ね、アリス」
「うん、そうだねえ。美味しいよね……あ、雪姫さん材料炒めて」
会話に気を取られてただフライパン炒めてるだけになってるから雪姫。ポン発動しかけててヤバいな。
それから三人で談笑しながら(雪姫を監視&教えながら)調理が進み、ときどきミニトマトとか消失しつつ(雪姫の頬がリスのようになっていて、間戸が探偵ごっこを始めたり)無事にカレーが完成。あとはご飯を炊いて夜に食べるだけだ。ちなみに雪姫に味見をさせたら、「……よくわかんない……もう一回」といって全部平らげる勢いで味見しようとしたので止めた。何という暴食の女王。
そうして一段落。時刻は二時過ぎと割とはやくカレー作りが終わって、これなら昼食にしたほうが良かったかもなと思いつつ、しかし夜がいいと雪姫が言っていたのでカレーパーリィーは夜にすることにした。
間戸にも時間大丈夫かと聞いたところ、「いーよー、全然」と了承を得たので夕食に決定。
しかしながら昼食抜きというのもアレなので、俺はサンドイッチか何か小腹をみたせるものとお菓子を買いにタワマン一階へ。雪姫もついてくると言っていたが、間戸を一人残すわけにもいかない。二人にはゲームをしてもらいつつ買い出しへ。
ちなみに今日は二人でできるゲームを持ってきている。『ふよふよパズル』という上から落ちてくるスライムのような生き物を四つくっつけて消すパズルゲー。
間戸は経験者で雪姫が初プレイ。四プレイくらいみてから部屋を出たのだが、最初ははやり経験者の間戸が優勢というか圧勝で雪姫をボコボコにしていた。けれど二回目でいい勝負をし始め、残り三、四回目では雪姫が大連鎖をかますようになり間戸をボコボコにしていた。どうやら雪姫は『魔物狩者』のようなアクションゲーより『ふよふよパズル』とかパズルゲーの方が得意なのかもな。
エレベーターが一階へと到着。出るとコンシェルジュさんがウメェ棒を小動物のようにさくさく食べていた。目が合うと彼女はビクリと体を震わせ目を見開く。そして俺だとわかると「なーんだ、アリスちゃんかぁ。焦らせないでよもう〜w」とへらへら笑いだした。へらへらすな!
てかお姉さん勤務中じゃないの?もしかして休憩中なのかな……にしてもカウンターでお菓子食べちゃダメじゃね?
「なにしてるのさ、アリスちゃん」
いやおまえがな。と俺は心の中でツッコむ。てか冷静に考えてさっき焦ってたってことは悪いことしてる自覚あるんだよなこの人。
「コンビニに買い出しをしに」
「あー、なるほど。いいよねえ、マンションにコンビニ入ってるとか。ちょう便利だよねえ」
「ですねー」
便利過ぎるのも問題かもな。そのウメェ棒とか他のお菓子が入っているであろうその袋……ここのコンビニで買ってきたやつだよな。
お姉さんは俺の視線がコンビニ袋にむかっている事に気がつくと、「あ、これね売り上げ貢献だから。はは」と言い訳をした。絶対嘘でしょ。
けどこの人こんな感じでいい加減だけどなんか憎めないんだよな。親しみやすいオーラが出ている。てか美人だし、居住者から人気ありそう。
「ん、どーしたの?」
「いえ、なにも」
「ははーん、そうかそうか。手を出し給え」
「?」
手を出すとウメェ棒をくれた。そんな欲しそうな顔してたか?
「ありがとう」
「そのウメェ棒、梅味だよ。ウメェウメェっつって、ははw」
ちょ、うぜえw
そうしてお姉さんとウメェ棒食べながらの雑談と買い出しを終え部屋に戻った。
「この、クソ……やりやがったな!!だが、これでッ……!!」
「……く、くく……ぁ、ああっ……」
「ふはははは!!どーだ思い知ったか!!!」
「……まだ、五勝五敗……勝負はこれからっ!!」
帽子を被った間戸と雪姫の勝負が白熱していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます