サボテンの骨

藤泉都理

サボテンの骨




 サボテンの骨。

 枯死しては緑色の幹がカスカスになり、枯れ果て色の木に変化したサボテンの事を指す。

 オブジェとしてインテリアに飾ったり、エアープランツを着生させたり、ドライフラワーの材料として使ったり、昆虫や爬虫類などの小動物ペットの住処や水槽などに入れたりなどの使用方法がある。






「へへっ。親方に教えてもらった通りだ。ここに辿り着くまでに金と時間がかかったけど、十分に稼げるからモーマンタイだね」


 砂漠と成り果てた離島まで小舟に乗ってやって来たのは、一人の少女。

 名を花梨かりんといい、常にトースターを背負う。

 職業は、サボテンの骨の収集家。

 自然にできたサボテンの骨をトースターで消毒してのち、親方の店に通じている巾着袋に入れて、親方に送るのである。


「金持ちの間でこのサボテンの骨が流行するなんてなあ。お金ががっぽり稼げるのはいいけど、大陸のは取り尽くしちゃったってんで、こんな遠くまで来たわけだけど。話と違うなあ。全面砂漠だって聞いてたのに、サボテン以外にもちょくちょく草も木も生えてんじゃん」

「これ。少女よ。何をしておる?」

「ん?」


 じぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 花梨がサボテンの骨をトースターに入れてスイッチを回し、消毒されるのをトースターの音を聞きながら膝を抱えて待っている最中であった。

 花梨は声をかけられたので振り返ると、オールバックの銀色の長髪、上半身が裸で、下半身はサボテンの骨で覆い尽くす、ほどよく日に焼けた男性が立っていた。


「サボテンの骨を消毒している最中だ」

「ほお。消毒。そのトースターで消毒ができるのか?」

「ああ。消毒しないと、サボテンの骨に棲みつくサボサボテンテンが色々悪さをするからな。おっちゃんは下半身がサボテンの骨だらけだけど、ちゃんと消毒してんだよな?」

「いや。消毒してなかったから、俺の下半身に吸い付いて離れない。サボテンの骨のデザインが好みでズボンにしたが。いやはや。まあ。吸い付いて離れないだけで他に害はないからいいのだが」

「うえ。ばっちい」

「大丈夫だ。スカスカだから工夫して洗っている」

「ふ~ん。ならいいけど。もしよかったら、消毒してやろうか?」

「いや。いい。これも一種の共存だ。受け入れよう」

「変なおっちゃんだ。おっちゃんは何してんの?」

「おっちゃんは、トレジャーハンターだ。名前は、団蔵だんぞう。この離島に財宝が隠されているらしいので、やって来たのだ」

「私の名前は花梨だ。サボテンの骨の収集家だ」

「ほお。そんなにちっこいのにもう働いているのか? しかもこんなに大きなトースターを持ち歩いているのか? おまえの身体より大きいではないか。もしや拡縮可能なのか?」

「ううん。ずっとこの大きさだよ。私、力持ちなんだ」

「ふむ」

「ついでに強いから。だから一人で出歩いているんだからね。変な事をしたら、このトースターで殴って全身の骨を砕くから」

「するか。莫迦者。ここに留まっているのは、俺のトレジャーハンターとしての勘だ。特に、今消毒中のサボテンの骨に何かありそうな気がするのだ。例えば」


 ちぃーん。

 消毒終了の音色がその場に小さく響いた。


「あちち」


 花梨はサボテンの骨を取り出して、巾着袋に押し込もうとした時だった。


「あっ! あっ! 返せよ泥棒!」

「待て待て待て待て!!! トースターを掴むな持ち上げるな殴りかかろうとするな!!! よく見ろよく見ろ!!! このサボテンの骨のここを!!! 文字が書いているだろ!!!」

「もじぃ?」

「そうだ!!! 恐らく暗号だ!!! 財宝の在り処を記した暗号だ!!! メモをするから待ってくれ!!!」

「え? 暗号!? なあなあなあ!!! 解読してくれよ!!! そんで私も財宝の在り処に連れてってくれ!!! 財宝は要らないから!!! 見たいだけだから!!!」


 トースターを下ろして、ぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねる喜色満面の花梨に気をよくした団蔵は、いいぞと鼻高々にして言った。


「ふふふふふ。トレジャーハンター団蔵のかっちょよさをその目で見られる事を光栄に思えよ」

「うん!!! わー!!! 楽しみだなっ楽しみだな!!!」

「ふふふふふ」


(ま。まあ。見た事がない暗号だが、大丈夫だろう。え~っと。なになに? うん。まず読めん。よし。花梨を落ち込ませないように解読できたと言って、洞窟に連れて行こう。花畑があったからな。うん。あれを財宝だと言っておこう。よかったよかった。トレジャーハンターとしての面目は貫かれる。ふう)


「なあなあなあ!!! 団蔵まだ!?」

「おうよしよしちょっと待ってろ。んふふふふ。これは簡単な暗号だ。おおう。もう解けてしまったぞ」

「うわあ!!! すごいすごい!!!」

「んふふふふふ」

「すごいすごい!!!」

「んふふふふふ」


(う。ちょっと、罪悪感が。ここまで褒められると。いや。いいのだ。うん。解読できないなんて言ったら。ね。うん。ね)


「団蔵団蔵!!! 早く行こう!!!」

「う。うん」


(うん。あの洞窟の花畑絶対喜ぶよね。うん。うん)










(2025.1.23)



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サボテンの骨 藤泉都理 @fujitori

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