第5話 ついうっかりという事はよくある(普通は無い)。
この奇妙な世界に放り込まれて3日目。大きな変化は不意に訪れた。
「……わふ? (……ん?)」
崖先から海へ飛び込んでゴムボールスライム(仮)共からの難を逃れた翌日には調子も元に戻り、
よって水際や海中からの脅威には注意しつつも、暫くは崖上へは戻らずに数の暴力を突破する方法を探る事にした。
……その大事な戦の前に腹を満たすという基本にして最大の難題が降って湧いたのだが。
人であった頃でも何も無い崖下の岩場で道具もなしに食い物を得るのは難易度が高い。
ましてや今の俺は黒柴だ。取れる手段は限られてくる。
2日目は拠点の窪みから少し離れた岩場の浅い水際に迷い込んだ小魚や海辺の生物を狙おうとしたが、動きの素早い小魚やエビには逃げられ、カニなどの甲殻類には毒があるかも知れない。そもそも小型なものしか居ないから殻を喰ってるようなもんだしな。
幸いにも数日は喰わなくても活動出来そうな気配がするので他にも獲物が捕れそうな場所の当たりを付けるに留め、その日は体力を温存する事とした。
そして本日3日目の冒頭に戻る。今日も浅い水際方面へ向かいどうにかして小魚が捕れないかと揺らめく水面の向こうに泳ぐ姿をじっと眺めていると――
何だか胸の辺りの奥らへんからモヤモヤ、ムズムズと湧き起こるものがある。
それは次第にトゲトゲしたものへと変わり、イガイガと外へ出て行こうとしているよなぁと自覚した途端に。
パリパリパリッ……ピシャンッ!
眺めていた小魚へ向かって俺のわんこボディから小さな紫色の雷が迸った。
思いの外に高出力だったのか、なんと狙っていた小魚の周辺を含めてプカプカと数匹が浮き上がって来るではないか。
これは……今では禁止されてる爆破漁法系統っぽいけど、多分ここ地球じゃないからノーカン!
「はぐはぐはぐはぐ……」
もうやっちまったもんはしょうがない。それにしても柴犬だから紫電ってそりゃ安直過ぎんじゃね? と思わんでも無いが。そもそも漢字が違うだろうに。外国で売ってる違和感バリバリ漢字Tシャツかよ。
とは言え使えるものは雷でも使え精神で、ちょちょいと出力の仕方を工夫してみる。
電気から派生して人類は電磁波とかマイクロ波とか果てはレーザーなんかを生み出して来た訳だから、そいつらを想像しながら創造してやれば。
電子レンジやオーブントースター、そして最終的に電気グリル(魚焼き器)へと想像を膨らませた結果、こんがりと香ばしく焼き上げる焼き魚調理が俺の眼の前で出来るようになってしまった。
「はぐはぐはぐはぐ……」
このわんこボディはそこまでせんでも平気だろうが、一応寄生虫対策にもなるし結果オーライ、って事で。
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