第2話 青の都
遠い異国の地で、街の喧騒に身を置くとき、砂埃がたつ古びた駅のホームで汽車を待つとき、強烈な日差しに煌めく海の水面を望むとき。異邦人の孤独と不安を感じるが、一方であらゆる責任からの自由、大きな解放を感じる。
住み慣れた我が家と会社に心が縛られ、縛られていることすら意識できない今、何もかも捨てて旅立つことができたらどう感じるのだろうか―
―刺すような強い太陽、巻き上がる砂埃、黄金に輝く広大な砂漠。過酷で生命を拒む地を抜けて、シルクロードの真ん中で数千年もの繁栄を誇るこの「サマルカンド」に僕はいる。残してきたもの、捨ててきたもの、家族、仕事、友人、故郷、祖国、あらゆる絆。全て記憶から薄れ、今の僕には過去と未来はない。ただ、現在だけがある。
サマルカンドで最も美しい、いや此岸で最も美しいもの、マドラサ。レギスタン広場から望むこの3棟の建築物、ターコイズブルーに彩られた中世イスラムの精緻な紋様、優美な曲線を描く構造。ただ我を忘れ、太陽と空とマドラサが調和したまま、時間が静止し、現在という永遠を享受していた―
―結局、過去と未来を置き去りをすることはできないけれど。今の自分に足りないものは、現在を生きるということなのかも知れない。
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