悪魔と少女のファーストキス
海鮮丼
プロローグ
長い長い眠りの中に沈んで、ぼんやりとトーキーを眺めているようだった。それは、誰かの記憶。少し早巻きで流れていくモノクロは、一切の淀みなく記憶を上映し続けた。
ノイズの入った映像の中には数多の四角い塔が建ち並び、すぐ横を何やら金属と思われる塊が信じられない速度で横切っていった。
ふとした瞬間に、それはもしや自分の記憶ではないかと思う。遠い過去のこと、誰かの人生をダイジェストで見せられていると思っていた考えが一転し、今度はこれは自分の人生の総まとめなのではないか、という考えが頭にこびりついた。
だとすると今の自分はなんなのか、この記憶を流し見ている自分は一体どういう存在なのかと、終わりのない自問が繰り返された。
そうして気がつくと、記憶はクライマックスに差し掛かっていた。薄暗い街中に、冷たい雨の降る憂鬱な朝だった。
映像の主人公は、自分が付き合っていた女の子に裏切られたらしかった。
終わりはあまりに呆気なく、儚いもので、彼は突っ込んできた一際大きい鉄の塊に押しつぶされて、死んだ。
「あれは…僕だ」
見終わった頃、その青年は青々として、草が活き活きと生える草原の上に寝転がっていた。終ぞ光すら差さなかったシアターのような空間とは対極の世界に放り出された。その光が眩しく、思わず目を細める。
「これは…異世界転生ってやつかな?」
先ほどまで十数年分の記憶を見たその中で、『自分』が好き好んで読んでいた小説は、その類のものだった。異世界転生。ごくごく有り触れた物語ではあるが、似通っていても面白いと思えた。
自分がそうなったんだという自覚のようなものは芽生えてはいないものの、彼は自分がそれらしき状況に置かれていることに対して、ワクワクとしたものを感じていた。その時だった。
《悪魔として転生ができたみたいだね。良かった良かった》
「っ!?」
突如として脳内に声が響いた。フレンドリーな雰囲気の声音だが、その奥底の感情は読めない。
「誰?」
《ん?君を転生させた神様。あれ?記憶なくしてる?転生の衝撃があったからかなぁ》
心底やっちゃったという口調に変わり、その声は原因と思われることを口にした。その後、その声はわかりやすく噛み砕いて説明をした。
それによれば、彼が今置かれている状況は彼自身が望んだことらしい。確かに、記憶の中の『自分』だと望みそうだなと、彼はストンと納得した。
次に、今の彼について。彼は今始祖の七悪魔というものになっているらしい。そこは神を自称する声が都合上そこに嵌め込むしかないと説明をしていた。ちなみに、怠惰を司っているよと、さらっと付け加えられた。
「その辺りの記憶がゴッソリと落ちていて…ごめんなさい」
《いいのいいの、気にしない気にしなーい。じゃ、これからの生活を、楽しんでね、『ベルフェゴール』。バイバーイ!》
そういうと、声は二度と聞こえてくることはなかった。こうして、彼は、悪魔『ベルフェゴール』として、異世界への転生を果たしたのだった。
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