第2話 あたたかい部屋

「こんなもんですかね」

店主は5.6枚の紙を並べると、「さあ、あとはご自由にご覧ください」と言わんばかりに煙草に火をつけ燻り始めた。

僕はテーブルに横一列に並べられた紙を眺める。ここらへんは相場が4〜5万円なのにも関わらず、全ての物件が2万円以下である。しかもどの部屋も、ワンルームで廊下にキッチンという学生アパートの様なものではなく、2〜3つの部屋にクローゼットやロフト、トイレと風呂が別の割とちゃんとした物件である。普通であれば6万円くらいするのではないか。


たぶん想像するに、所謂事故物件、つまり自殺や事故や事件で住居者が他界してしまったのだろう。そういう物件は一定の期間値段が下がるとテレビで見たことがある。しかしそれにしてもここまで安くなるものだとは思わなかった。

横一列に並んでいる右端の紙を見て、僕は「は?」と思わず声を出してしまった。店主が僕の声に反応して少しこちらを見たが、すぐに天井に伸びる煙草の煙に視線を戻す。

【敷金礼金のみ。月0円】

これは、印刷ミスだろうか。高い安いの話ではない。0円とは一体どういうことなのだろう。


「すみません、こちらの物件なんですけど…」

店主に尋ねると、

「ああ、それね」

と煙草を灰皿に垂直に押し当てながら答えた。

「分かってるとは思いますけど、そこにあんのは事故物件、てやつでね。放っておくと誰も住みつかないんで安くしてるんですよ。しかし、その物件だけは事故物件、ってわけではないんです」

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