敷知遠江守

理想と現実

 ユニコーンというバンドがいます。

 奥田民生さんがメインボーカルをやってらっしゃるバンドです。一度解散して、何年か前に再結成されて、今も活動してらっしゃいます。


 私は解散前のユニコーンが大好きです。

 他の多くのバンドが愛やら恋やら失恋やらを美しい歌詞で書き、それを美しい曲に合わせて歌う事に重点を置いているのに対し、ユニコーンの歌詞は面白さに重点を置いていると私は感じています。

 どこか小林旭さんに通じるような。「燃える男の赤いトラクター」ですよ。あの方の曲も面白すぎなんですよ。(全然世代じゃないですけどね)


 そんなユニコーンの発売したアルバムに「ヒゲとボイン」というものがありまして、そこに「風」という曲が収録されています。

 「ヒゲとボイン」自体もシングルで発売した曲なのですが、それを主軸に置いたアルバムも発売されているんです。

 外人目線で日本を見た「ニッポンへ行くの巻」、どこかBL臭のする「ザ・マン・アイ・ラヴ」、お爺ちゃんが主人公の「Oh,What a Beautiful Morning」、幕末の日本を舞台にした「車も電話もないけれど」と、どれもこれも、何とも癖が強いというか、エッジが効いたというか、一風変わったというか、そんな曲ばかりです。


 その中の一曲が「風」という曲です。そして収録曲を見ていくと、さらに下の方に「風II」という曲が。

 タイトルからも想像がつくと思うのですが、この二曲、実は対になっている曲なんです。


 歌詞サイトで見てもらうとかなり驚くと思います。

 この曲、歌詞が二行しかないんですよ。


 それを書いてしまうと怒られるので要約すると、「風」はあくまで予定。

 八時に起きて、ジョギングして、部屋の掃除、その後に区役所へ行く。

 「風II」は結果。

 起きたら九時、外は雨、二度寝した。



 これに倣って、私も休日の「風」と「風II」というものを考えてみようと思うんですね。


 まずは「風」。

 朝七時に起きて、雨戸を明けると眩しい光に襲われ、小鳥のさえずりにおはようの挨拶を返す。

 顔を洗って緩んだ頭を引き締める。

 目玉焼きとベーコンを焼きながら、オーブンではパンを焼き、挽いたコーヒー豆をフィルターに入れ、沸かしたお湯でゆっくりとコーヒーを淹れていく。

 目玉焼きには塩胡椒。ちょっと鼻がむずむず。

 コーヒーの香りを嗅ぎながら、携帯電話で今日公開した小説の反応を見る。上々の反応にご満悦。パンを齧りながら、目玉焼きの黄味を崩す。


 朝食が済んだら、穏やかな日差しの中、近所を散歩。あ、もう土筆つくしの芽が出てるなんて思いながら、春の訪れを全身で感じる。

 少し汗ばんだところで帰宅。

 水分を補給し、春の優しい光を感性に変換して、小説に落とし込んでいく。


 うん、今日はいつもより筆が進むぞ。

 今のうちに明日公開分のお話の推敲をしておこうっと。


 朝がパンだったから、昼食はご飯にしよう。ハムを厚切りにしてフライパンで軽く炙り、その傍らでインスタントのお吸い物を作る。昨晩煮たさつま芋、買ってきた稚鮎の佃煮をおかずに、香りと湯気の立ち上る白米を口の中へ。


 午後は気の合う友人とお出かけして、楽しい会話の中から小説のアイデアを得る。

 夕飯は予約していた近所のさわやかでげんこつハンバーグに舌鼓。


 家に帰った後は、入浴剤の良い香りを嗅ぎながら、昂った神経をゆったりと湯舟に浸かって落ち着かせていく。


 夜になり周囲が静まり返ったせいか、やたらと創作意欲が湧いてくる。

 今日は筆が進む。せっかくだからもう一話だけ書いちゃおう。

 まだ書けそうだけど、楽しみは明日に。


 寝る前に気になる作品を読んでおこう。みんな面白くて、勉強になるなあ。

 あ、もう十一時か。

 ふかふかの布団で就寝。



 次に「風II」。

 今何時だろう? まだ眠い……携帯電話どこ?

 えっ! 嘘でしょ? もう九時なの?

 仕方ない、起きるか。お腹ぽりぽり、お尻ぽりぽり。

 雨戸開ける。うえっ、眩しい……ぶえっくしょい!

 顔を洗ってと。ううわ、水、冷たっ!

 ああ、もう朝食は良いや。


 とりあえずPC起動。今日公開した話の反響はと……はぁ……。見なかった事にしよう。

 こほこほ、こほこほ、今日もまた喘息の発作か、しんどいなあ。花粉症の季節だから、また喘息が再発してる気がする。


 さて小説でも書くか。

 ……。……。……。……。

 ……全然筆が進まない。

 ……気晴らしにYoutubeでも見るか。


 うわっ、もうお昼じゃん。

 お昼かあ、面倒だから夕飯だけで良いか。別にお腹もそこまで空いてないし。


 Youtubeばっか見てても話は書けないしな、とりあえず書くか。


 うわ、もうこんな時間。

 夕飯の買い出しに行かなきゃ。


 夕飯作るの面倒だなあ。でも今日、まだ小説書きながらお菓子摘まんだだけだしな、何か食べないとな。

 はあ、面倒くさい……


 お話を書く勉強の為にも他の人の作品を読まないと。

 ふう、なんで他の人の作品ってこんなに面白いんだろう。自己嫌悪に陥りそう。


 ああ、明日公開の話の推敲もしないとな。お風呂入ってからやるか。


 もう毎晩毎晩、なんで珍走団ってこんなにうるさいんだろう。この人たち、このガソリンの高い中、どこからガソリン代を捻出してるんだろ?


 ……ふわぁぁ、自分の書いた文なのに読んでたら眠くなってきた。

 こほこほ、こほこほ、うう、また喘息の発作かあ、しんどいなあ。


 え? もう二時? 嘘でしょ?

 寝よう……うう、煎餅布団寒い……



 大変申し訳ないのですが、恥ずかしいので「風II」の方は早急に忘れてください。

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敷知遠江守 @Fuchi_Ensyu

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