骨抜き  後編

 カランがフォルト・ウィトレア・エストが女だと気づいたのは、同室だからだ。

 ある日、エスト君は着替えていた。パンツ一枚だった。

 カランは、そのときは何の違和感も感じなかった。何度か、そういう場面に遭遇するうちに、(あれ?)と思いはじめた。

 エスト君は立ったまま小用を足さない。

 田舎者などは、そこここで立ち小便をするのが常だ。エスト君は田舎者なのに、そこだけが貴族の子息のようだった。

 そこで、エスト君の着替えの時に、パンツの部分を観察するようにすると、もっこりが生まれ持ってのものとしても、足りないと思えた。

(エスト君は、もしや)

 疑念がカランの胸の内に広がった。

 いくら自分が特権階級だといっても、エスト君に「全部脱いでみろ」とは言えない。



 マルティンがフォルト・ウィトレア・エストが女だと気がついたのは、湖での水泳鍛錬の時だ。

 パンツ一枚で泳いでいたエスト君が、「脱げました~」とあわてはじめた。マルティンは「取ってやる」と、ざぶりと湖に潜った。水中に、ひらひら沈んでいく白いパンツをつかんでから、ちょうど目の前に、水にたゆたうエスト君の全裸が見えた。

 危うく、おぼれかけるところだった。

 目をひんいて、湖面から顔を出したマルティンの手からエスト君は、「ありがとうございます~」と、パンツを受け取って、水の中で器用に履いた。今度は、ずり落ちないように、パンツの腰紐を、しっかりしめたと言っていた。

 マルティンは混乱した。自分の見たものが信じられなかった。

(きっと水の揺らぎが見せた幻だ)

 そう信じようとしたが、たしかに自分は見たと、心の中のマルティンが言う。



 ――フォルト・ウィトレア・エストは男じゃないだろ!


 ――しかし、なんで平気な顔して、見習い侍従、やってんだっ。

 ――胸、いくら平らだからって、男の前で半裸とか、全裸とか、有り得ないだろっ。


 カランもマルティンもエスト君のことが理解不能で、頭の中が固まった。故に、知らないふりを通すことにした。可能な限り、エスト君が女だとばれないように配慮しながら彼らは、見習い侍従の日々を過ごすことになった。


 それが受難であったか、恩寵であったか。神さまにもわからない。





    〈つづく?〉 

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いとしのリヒテンシュタインさま 6 骨 ミコト楚良 @mm_sora_mm

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