沖縄でシェフになってウミンチュを好きになる

yuzu

第一章　出会いはもちろん漁港で

沖縄の春、東京のよりも一回り大きな太陽から黄金色の光が降りそそいでいる。

コンクリート建ての家やアパート、赤瓦の平屋、塀や屋根に鎮座しているシーサー達。

　軽自動車の窓を全開にして走っていた。

　昨日、海沿いの古いアパートに荷物を運び入れ、今日は隣町にあるホームセンターへ新生活に必要な物を買いにきた。

「大丈夫なの？　さっきから同じ道をぐるぐるまわっているよ」

　後部座席で、5歳の春樹（はるき）が不安気に外を見ている。

「お母さんもこのロータリー初めてだから」

「ここはどこなの？」

「わからない」

「お母さん、見て。海だよ。釣りをしている人がいるよ」

　春樹の隣りに座っているのは、丸刈りの3歳の大輔（だいすけ）。

　窓から身を乗りだそうとして、チャイルドシートのベルトが体にくいこんでいる。

「見たいよ。見たい」

「ちゃんと座ってて」

　声をかけ、ロータリーを回る前の車についていく。

　ロータリーには、那覇から糸満へ伸びる県道、交差している市道、脇へ入る側道が2本、それに歩道用の信号があり、何がなんだかわからない。

「人の写真がたくさん貼ってあるよ。あれは何？」

　私は行き交う車を睨（にら）みつつ、春樹の目線を追った。

「ポスターのこと？　選挙があるんだと思うよ」

「カタカナでなんて書いてあるの？」

「コウイチとマコト。沖縄は同じ名字の人が多いから、名前で選挙の活動をするんだって。それより、お母さんはついに魔のロータリーを脱出しました！」

　やっと港へ続く側道に抜けることができ、コンビニの横の空き地に車を停めた。

このとき、道に迷ってロータリーに来なかったら。

大輔が釣りをしている人を見たいと言わなかったら。

私の、私達の人生は、全く別のものになっていた。

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