第25話

「お母さんは人当たりがいいだけ。


 顔は笑っていても、心でどう思っているかわからない。


 あんたと出かけるのも、私の素行調査が目的なんだから。


 本当、余計なことを言わないでよ。


 飲み過ぎて、気づいたらあんたがここにいたってばれたら困る。


 最悪、私を監視するためにこっちに住むとか言い出しかねないし」



 デブがうなずく。


 噛んでいるときは、顎の下のたぷたぷとした線が太くなったり薄くなったりする。



「ねぇ、なんでそんな太っちゃったの? 


 私と夕飯を食べるときはそこまで食べないし、掃除や洗濯とか、けっこう動けるし」



 デブは目を合わせ、「だからよぉ」と言う。



「まさか、言いたくない、とか?」



 デブのにこにこ顔に変化はない。



「あんたにも言いたくないことってあるんだ。


 デブが嫌ならやせればいいじゃん。


 食べる量を考え、体を動かす。よく眠る。


 シンプルで簡単でしょ? 


 なのに、世の中にはダイエット本があふれ、楽にやせられるという名目さえあれば、グッズが飛ぶように売れる。


 なんでかわかる?」



 デブは自分の皿をきれいにし、羊羹を一切れ残して箸を置いた。


 私がビールを飲み干すと、良いタイミングで注いでくれる。



「デブはさ、一日にして成らず、なんだよね。


 習慣によってデブは作られる。


 朝、起きてすぐに歯を磨く人がいれば、朝ごはんの後に磨く人もいる、朝は磨かない人もいるでしょ。


 習慣を変えるのって簡単そうで実は難しくて、よっぽど一念発起して今日からこうすると決めて2週間以上は続けない限り、変わらない。


 一日一回はコンビニに寄る、買い物の時にお菓子を買う、夜にチョコを食べる、とか。


 そういう習慣の積み重ねがデブを作る。


 そして、一番大事な、あんたがデブな理由。


 わかる? 


 いいよ、羊羹食べて。


 これ、沖縄の一つ残しでしょ? 


 はい、食べて食べて」



 デブはにっこりと笑い、皿の真ん中にちょこんと残っている羊羹を口に入れた。


こんな幸せそうな顔をされれば、羊羹だって本望だろう。

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