第21話

土曜日の夕方、信号という信号にひっかかって、なんとか家まで帰ってきた。


 しかし、家の中にデブはいる。


 気配でわかる。


 けれど、もう一人の気配は誰?



 玄関のドアを開けたら、ベージュの革靴があった。


 もちろん、デブの大きなスニーカーもある。


 消臭スプレーをかけるのをはぶき、リビングへと急ぐ。


 母だ。


 昨年、退職した母。


 今まではきっちり予定を組んで沖縄へ来ていたのに。


 なんで今日なのか。


 昨晩、電話を取らなかったから? 


 かけ直そうと思っていたけれど、仕事で疲れた体にビールと鍋、頭ではデブの対処法を考えていたので忘れてしまった。



 ドアを開けたらいつもと同じ、たれ尻が目の前にあった。



「あら、お帰り」



 母がカウンターキッチンのむこう側に立っている。



「理紗、人がいるならいるって言いなさいよ」



 待って、とバッグをテーブルに置き、デブに背をむけて椅子に座る。



「どうして来たの? 来るなら来るって言ってよ。空港まで迎えに行ったのに」



「そしたら、来ないでって言うでしょ」



 母は皿を洗っている。


 中皿が二枚、スープ皿小が二枚が洗いカゴに整然と並べられている。


 デブと二人で何か食べたんだ。


 あのデブ嫌いの母が。

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