第20話

新しいビール缶を出しながら尋ねたら、こっちを向いてデブはうなずいた。


 デブの微笑み、と思ったときに私のスマホが鳴った。


 こんな時間に。


 が、まだ20時だ。


 誰? 


 嫌な予感がする。


 望んでいない相手からの電話のような。


 といっても、電話をかけてほしい相手はいない。


 デブは首を傾げ、犬のようなまっすぐな瞳を私にむけている。


 それはそれでむかつく。



 スマホの画面には、母、とある。


 無理無理、デブの前で母とは話せない。


 電源を切り、なかったことにする。


 あぁ、スマホのように、デブもなかったことにできたらいいのに。




 嫌な予感がする。


 昨日までとは違う、嫌な予感。


 今、私の家にいるのはデブ一人ではない。


 毎週のことだけれど、土曜出勤して平日にできなかった仕事をしてきた。


 こども達のノートのチェック、図工の作品へコメントを入れる、作文を読み評価するなど、やることにはきりがない。


 家を出る前。



「3泊もしているんだから、今日は絶対、私が帰る前までには家に帰ってよ。


 帰るって荷物を取りに行くんじゃなくて、二度とここには来ないっていう意味だよ」



 デブはテレビを見ながら「はーい」と言った。


 あまりに楽天的なデブの声。


 帰る気はない、とよくわかった。


 こうなったら警察を呼ぶのはどうだろう。


 しかし、警察官が来て、いろいろ聞かれて。


 デブがいつものようにのらりくらり答えて。


 ウチナンチュ同士で気があって。


 警察官に、私とデブの単なる痴話げんかのように思われたら……。

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