第4話 青木和也 『彼女と僕』

 サクラダ アイと別れてから車に轢かれそうになり、避けた拍子に転んでしまった。ぶちまけた鞄の中身をかき集め、満身創痍で家に帰った時には、彼女の存在を忘れていた。


 翌日、彼女のことを思い出して友人たちに聞いてみた。学校帰り知らない女の子に声をかけられ、彼女は僕のことを知っていたと話すと、友人たちは面白がった。


 「同じクラスどころか、この学校に『サクラダ アイ』なんていないだろ。お前、いくら彼女が欲しいからって妄想が激しすぎ」

「夢でも見たんじゃないの?」

 友人たちはそう言って僕を冷やかした。


 夢でも妄想でもない。僕は確かに彼女に会った。そう思い、学校帰りにもう一度あのアパートに寄った。彼女は、この前と同じ制服姿で窓際に立っていた。僕はゆっくりと彼女に近づいた。彼女も僕に気がついたようだ。

「あれ、青木くん。また会ったね。ネコのちぃちゃん元気にしてる?」

 彼女はにっこりと微笑んだ。青白い顔についている赤い唇に一瞬ドキリとする。

「え?」

 彼女は僕の名前だけではなく、飼いネコの名前まで知っていた。聞くと、両親は交通事故で亡くなって、現在は兄と二人暮らしをしているらしい。彼女は何者なんだろう。僕の中に一つの仮説が浮かび上がった。

 

 数日後。

 僕は彼女の家を訪ねて、ある疑問をサクラダ アイの兄にぶつけた。

「お兄さん、あいさんって……」

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