故人、酒

葬式。

死んだ父の遺品を整理していると日記を見つけた。

故人とはいえ他人の日常を覗き見るなど悪趣味極まりない。断じてページを開くべきでないと理性は言っているが、どーせ死んでんだ。無礼も恥もあるものかと、俺は表紙をめくった。

十五日木曜日。

週の谷間。さっさと帰って寝たいと思っていたが後輩から「相談がぁ」などと持ちかけられ居酒屋へ。愚痴を聞かされ金を払う。ビールが痛い。

十六日金曜日。

イケイケの後輩から「付き合いの悪い先輩はどこのどいつだーい」と肩を掴まれ連行。朝まで付き合わされ金を払う。ウィスキーが苦しい。

十七日土曜日。

「最近付き合い悪いよねー」と趣味友からの連絡があり昼から飲む。割り勘だったが一日コースで散財。飲み過ぎだ馬鹿。

十八日日曜日。

流石に寝たかったが姉から「話がある」と連絡があったためシャワーを浴び実家へ。なんだと思ったら母親の誕生日プレゼントをどうするかだと。ふざけんな。セラーにあるワインを拝借し憂さを晴らす。

十九日月曜日。

定時退社。定時退社。定時退社をさせてくれ。願い叶わず、上司に捕まる。「週初めはガソリンいれなきゃなぁ！」じゃねぇよ。しかも安い居酒屋だし割り勘。ケチ！

二十日火曜日。

今日こそは眠りたい。早く眠りたい。なるべく早く眠りたい。からの残業。いい時間に終わり帰路。道中の誘惑。まぁ少しくらいはいいだろうと暖簾を潜り続けていると結局日付が変わってしまった。

二十一日水曜日。

寝たい寝たい寝たい寝たい。

仕事も集中できない無理無理無理無理。

とはいえ送別会。結局三次会まで出席。ちくしょう。

二十二日木曜日。

結局一週間飲みっぱなし。肝臓数値も悪くなる一方だ。今日もどうせ何か……あ、なにもない。まじか。ようやく眠れる……でも何か寂しいな……飲みに行くか！

結局毎日飲酒三昧。

今年の健康診断では肝臓数値はD(三年連続六回目)。

こりゃ死ぬな。しかし、身体に悪いと分かっちゃいるけどやめられない。付き合いもあるんだしょうがないじゃないか。多分、明日も飲む。

……

次のページも、その次のページも、日記全て、酒、酒、酒であった。

そりゃ肝硬変にもなるわと今度は薬の袋を手に取る。異変。中を見ると全部未開封。

どんだけ死に急ぐんだと、もう笑うしかなかった。