第11話



「女子が全員いなくなったら、俺ら寂しいし。な?」


 モカちゃんの彼氏でもなく、さっきまであたしの隣に座り勢いよく話しかけてきた男でもない、三人目の男子。黒髪で、けれど真面目な雰囲気はあまりなく、のらりくらりとしているような印象の男。ピアスがいっぱい付いている所為だろうか、あたしに向けられた薄い笑顔に違和感を覚えた。


「いやいや」


 陸のやけに明るい声がして彼を見ると、目を細めて微笑んでいる。


「だって合コンでしょ?女子を連れていくなんて申し訳ない。さっきのは冗談だよ?ね?孝」


「あ、あぁ……」


 半ば無理やり頷かされた孝は神妙な顔であたしを一瞬見た。何か言いたげだったけれど、陸に背中を押されて部屋を後にする。


「じゃあ由奈、また」


 部屋から出る直前、陸がヒラリと手を上げて綺麗に笑った。


 陸が綺麗な微笑を浮かべる時は決まって良くないことが起こる。(それはあたしにとってで、陸にとっては楽しいことかもしれないが)



「あ、言い忘れてたけど、由奈、紅葉のお姫様だから。変なことしないでね?」


 去り際、まるで捨て台詞のように陸がさらりとそう言った。パタンと扉が閉まり、あたしは愕然と彼らが去って行った扉を見つめることしかできない。


 みんな静まり返っている。と、思えば、丁度カラオケの画面が変わるタイミングだったようで、若いアーティストの「楽しんでるー?」という明るい声が唐突に聞こえてきた。



「ねえねえ由奈!どういうこと!?」


「あの紅葉の?え、紅葉って有名な、あの紅葉のことだよね?どういうことなの!?」


 サユちゃんとモカちゃんが興奮気味に前のめりであたしに詰め寄ってくる。画面の中のアーティストよりも遥かに声が高く、大きい。



「そっか、姫なんだね、由奈ちゃん。それならさっきの人達と仲良しだったのも頷けるね」


 三人目の男子が緩やかな声を出し、あたしの方を見てニコニコと笑っている。他の男子達は三人目の男子に「由奈ちゃん狙いなのか?」とか「お前、紅葉の人達のこと怖くねぇの?」とか、話しかけていたが、彼は受け流すように返答をして、たまにあたしの方を一瞥していた。


 なんだか変にこっちを見てくる気がする。居心地悪いな……。


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