第10話
恐る恐る、通話ボタンを押して耳にあてると、『由奈?』と、來の声がして、心が緩んでしまう。体の力が抜けるような、そんな安心感のある声。飽きもせず「好きだな」と毎回思ってしまう。
『今日、何時頃、解散予定?夜危ないから送って行く』
「あ、え、えっと……」
サユちゃんとモカちゃんを一瞥してしまうと、二人とも不思議そうにこちらを見ているだけだった。通話が聞こえていないから当たり前なのだが、どう答えていいのかわからず、けれど良い答えなんてこれっぽっちも浮かばない。言葉に詰まっていると。
『ん?由奈、カラオケいるのか?』
「えっ!?」
あたしがここにいるってこと、來も知ってたの!?
驚いて声を上げると電話の奥からクスクスと來の笑い声が聞こえてくる。
『なんでそんなに驚いてんの?実は今、俺もカラオケにいるんだけど、曲紹介とかのさ、テレビから流れてくるだろ?あれが同じ音してんなーって思っただけ』
「あ、あぁ……そっか、音か」
『つーか、陸と孝と一緒にカラオケ来たんだけど、あの二人、ドリンク取りに行ってくるって言ったまま全然戻ってこねぇの。何してんだか』
「う、うーん、一体何してるんだろうね?」
陸はあたしと目が合うと、微塵も動揺することなく綺麗に微笑むだけだった。
『まあ、じゃあ、帰る時間わかったら教えろな。あと、迎えに行く場所も。メッセージに送ってくれればいいから』
「う、うん、わかった。ありがとう」
『ん。じゃあな』
通話終了の画面を見届けて、携帯をポケットにしまう。
「その渋い顔、ぶっさいくだな!」
孝はデリカシーのカケラもなく、あたしの背中をトントンと叩いて笑った。あたしは余計に顰めっ面になった。
孝って、余計なことばっかり言うんだよね。
「來、なんて?」
「陸と孝が戻ってこないって言ってた」
「あー、そろそろ戻ったほうがいいか」
陸は扉の方へ目をやり、それから孝の腕を引いて「孝、そろそろ」と退出を促す。それにいち早く反応したのは女子達だった。
「えーもう帰っちゃうんですか?」
「あ、ねえねえ、モカ、あたし陸さんと孝さん達の部屋行きたいなー」
「それ名案!あたし達、ついていきまーす!」
モカちゃんとサユちゃんは後ろで静かにしている男子達に目もくれず、キラキラした目をして陸と孝を見つめている。孝は女子二人をチラリと見たあと、あたしと目を合わせ、企みのある笑みを浮かべた。
「じゃーあ、由奈、」
そうして、あたしに手招きをする。どういうことか分からず、首を傾げると。
「由奈も一緒にこっちの部屋来いよ」
「え!?む、無理だよ!無理無理!」
碌でもないことを言うんだろうな、とは思ったけれど、本当にそうだった。
そんなことをすれば、來にバレちゃうじゃないか!
——ん?いや、待てよ?來に正直に話したいんだから、むしろその方がいいのかな?
あたしは後ろで神妙な顔をしている男子達を一瞥して、多分この人達は一緒に部屋には行かないよね?と心の中で呟き、孝の提案に頷こうとして。
「あ、じゃあ、あたしも一緒に——」
「由奈ちゃんは残りなよ」
「え?」
あたしも一緒についていくと伝えようとした刹那、後ろから聞こえてきた男の声に引き止められた。
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