第16話

 次の電車に乗り込んで、うまい具合に乗り換えができていつもの駅まで着いた。


 そしてここで、あることを思い出した。実は、音ちゃんの家を知らない。


 校区からある程度絞れるけど、それでもわたし一人で探し回ることはできないし、同じ苗字の家もあるだろうし……。


 こうなれば、中学の同級生に聞くしかないのかなって思ってスマホを取り出す。


 音ちゃんに送ったメッセージを確認してみるけど、音ちゃんは見ていないみたいだった。


 心が冷たくなっていく。


 なんで?


 なんで無視するの?


 わたし嫌われることしたのかな?


 訳が分からない。


 誰に連絡を取ろうかと考えていた途中、朝、音ちゃんと待ち合わせた場所に、無意識に向かっていたみたいで――。


「音ちゃん……?」


                   ◎


 ボーっと、なにも考えずに、燃え尽きたようにその場に立ち尽くしていた私は、もう聞くはず無いと思っていた、一番聞きたい人の声に反射的に反応した。


「なんで……」


 違う。言いたいのはそんな言葉じゃない。伝えたい言葉はもっと他にある。


 なのに……。


「音ちゃん、大丈夫?」


 なんで、そんなに優しいの……?


「ほっといて」


 それが嫌で嫌で、思い出したかのようにその場を去ろうとする私の手を、彼女は掴んでくれる。


「ほっとかない。ねえ音ちゃん、なんで急に? どうしたの? なにがあったの? やっぱりわたしなにかした?」


 私を逃がさないように、矢継ぎ早に撃たれる言葉で私をその場に刺し止める。


 動けないでいる私の前に回り込んで、俯く私を覗き込む。


 なんでそんな目をしているの?


 今すぐにでも泣きだしそうな、怯えた目。そんな目で見てほしくないし、そんな目、見たくない。


「……なにもしてない」

「じゃあ――」

「なんだっていいでしょ! ほっといてよ‼」

「嫌‼」


 私の叫びをかき消す程の鋭い声。


 でも、それに続く言葉は、震えて、自信が無くて、耳を塞げば聞こえなくなる言葉だ。


「嫌だよ……音ちゃん……。そんな、泣きそうな顔をしてたら……ほっとけないよ……」

「泣いてる人に、言われたくない……」

「だって泣くよ……好きな人が泣きそうになってたら、心配するよ……!」

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