第10話

 やってしまった。


 音ちゃんのしかめっ面がわたしの心にクリーンヒット。


 マジかよコイツ――って思われていそう。


 でも買ってしまった物は仕方ない。気を取り直して、次はどこへ行こうかと音ちゃんに任せると、案の定本屋にやって来た。


「本を買う金、かなり減った」

「ごめん……」


 チクチクと、わたしの胸の中で罪悪感が攻撃してくる。


 本当にごめん。自分のことしか考えていなかった。同じ服を買った音ちゃんの気持ちを考えていなかった。


 普段考えないことは考えるのに、そういったことは考えられない。自分のダメさ加減が嫌になる。


 ちょっと不機嫌そうかな、と音ちゃんの顔を盗み見ると、本屋にやって来たおかげか、楽しそうな表情でとりあえず安心した。


 音ちゃんは色んなジャンルの本を読む。そんな音ちゃんから本を借りるわたしも色んなジャンルを読む。


 でも、あくまで音ちゃんから借りてしか読まないから、あまり詳しくはない。


 音ちゃんはどういう基準で本を選ぶのだろう。好きな作者とか、舞台とかそんなのがあるのかな?


                   ◎


 加賀野はどんな本が好きなんだろう。


 いままで加賀野に貸した本は、ミステリから始まり、恋愛やラブコメ、ファンタジーやSFと多岐に渡る。唯一、文学作品は食いつかないから好きでもないし惹かれないというのは分かっているけど、どうしたものか。


 いつしか、自分が買う本は加賀野も好きかな? って考えて買うようになった。加賀野のことを優先しすぎて自分が楽しめなければ本末転倒だから、そのバランスは難しけど。


 時間が経つと共に、お揃いの服を買ったという嬉しさが滲み出てしまう。それを本屋にやって来て楽しいといった空気を出して誤魔化すことができることこそ、私が本を読んできた理由なのかもしれない。


 そんなくだらない思考で気を紛らわしながら、何冊か面白そうで、尚且つ加賀野も好きそうな本を見繕う。


 レジに向かって本を購入。


 外に出た私と加賀野。冬の冷たい風がビルの間を駆け抜ける。


 思いの外早く終わってしまった。


 加賀野の目的も達したし、私の目的も達した。でもまだまだ日は高い。


 勇気を出して、怖いけど、私は口を開く。


「この後、どうする?」

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