第7話 高橋悠斗(たかはし しゅうと)

翼、千景、悠斗の3人は、霧に包まれた不気味な森の中に迷い込んでいた。

この森は、どの方向に進んでも同じ景色が続き、まるで時間そのものがループしているかのようだった。


「ここ……永遠に同じ場所を歩いている気がする。」

悠斗が疲れた声で呟いた。


「この霧は、私たちの感覚を狂わせる魔法の一種ね。」

千景が冷静に答える。


「なら、早く出口を探さないと。このままじゃ……」

翼が剣を握りしめた瞬間、霧の中から不気味な声が響いた。


「……進むか、戻るか……選べ……」


霧が晴れると、目の前には巨大な扉が現れる。扉にはそれぞれ異なる文字が刻まれていた。

• 左の扉:「試練を乗り越え、進む者」

• 右の扉:「道を譲り、帰る者」


悠斗が扉を見上げ、困惑した顔を浮かべた。

「これ……誰かが帰るための扉か?」


「違うわ。」

千景が淡々と言った。

「これは、私たちに“誰を残すか”を選ばせる試練よ。」


翼が千景を見た。

「どういうことだ?」


「この扉は、どちらも正解かもしれない。でも、片方の扉を選ぶたびに、仲間を失うことになる。つまり……」

千景は扉を指差した。

「1人が“帰る”ことを選ばない限り、ここから先には進めない。」


議論している間に、扉の背後から巨大な魔物が出現する。その姿は霧で覆われているが、鋭い爪と目の光だけが確認できた。


「来るぞ!」

翼が叫び、剣を抜く。

悠斗も材料を集めて錬成術を発動し、即席の爆弾を作り出す。

• 翼が前衛で魔物を引きつけ、時間操作で仲間を守る。

• 悠斗が爆弾や罠で魔物を足止めするが、次第に疲弊していく。


魔物は凄まじい攻撃力で襲いかかり、悠斗が鋭い爪の一撃を受けて壁に叩きつけられる。彼の体が崩れた石柱の下敷きになる。


「悠斗!」

翼が駆け寄り、石柱を持ち上げようとするが、動かない。悠斗は苦しそうに笑った。


「大丈夫……俺、もう無理っぽいな。」


「そんなこと言うな!まだ助けられる!」

翼が叫ぶが、悠斗は小さく首を振った。


「俺、役立ててたかな……」

悠斗は自嘲気味に笑い、千景を見上げる。

「千景……次、錬成術が必要な時は、俺のアイデア帳、使ってくれよ……」


千景は冷静に見つめていたが、その瞳の奥には深い苦悩があった。


千景は誰にも気づかれないように紫の光を手に宿した。

(悠斗……お前には、まだ戻る道がある。)


彼女は心の中で静かに呟く。

「リーパー、発動……」


悠斗の体が薄い紫の光に包まれ始める。それに気づいた翼が驚いた顔で振り返る。


「また、この光か!」

翼が紫の光に触れようとするが、光が跳ね返すように遮る。


「お前、これが何か分かるのか!?」

翼は千景を問い詰めようとするが、千景は無表情のまま立ち尽くしている。


紫の光が強まり、悠斗は薄れゆく意識の中で最後に呟いた。

「……ありがとう……みんな……」


その言葉と共に、悠斗の体が完全に消えた。


悠斗は学校の教室で目を覚ます。異世界の記憶は失われており、ただ何かを「作り上げた」感覚だけが残っている。


「ここ……俺、戻ってきたのか?」

悠斗は手元のアイデア帳を開き、そこに見覚えのないメモが残されていることに気づく。

「これ……何だ……?」


その夜、翼が焚き火の前で呟いた。

「まただ……仲間が消えていく。この光……何なんだ……」


千景は翼の言葉を黙って聞き、焚き火を見つめていた。


(これで四人目……)

彼女は自分の手のひらを握りしめる。紫の光の余韻が、まだ指先に残っている気がした。


「……残るのは私たち二人だけかもしれないわね。」

千景は冷たく言ったが、その声には微かな震えがあった。

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