第5話 一条 葵(いちじょう あおい)

陽斗を失った一行は、不気味な遺跡の奥深くへと進んでいた。冷たい空気が漂う中、千景が魔法陣の文字を指でなぞりながら解読を試みている。


「この遺跡は、生命と引き換えに道を開く仕掛けがあるかもしれない。」

千景の冷静な声が響く。翼が険しい顔で応じる。

「またかよ……命を引き換えって、そんなのもうたくさんだ。」


「だが、避けられない現実かもしれない。」

千景の冷静すぎる態度に、翼は一瞬視線を鋭くしたが、口を閉じた。


奥の部屋にたどり着いた瞬間、遺跡全体が揺れ、天井から崩れた岩の中から巨大な魔物が現れる。それは、異常に長い腕と鋭い牙を持つ異形の存在だった。


「また出たかよ……!」

翼が剣を握りしめ、構える。

• 翼が時間操作で魔物の動きを封じようとするが、魔物の力が強すぎて完全には止められない。

• 凛が重力制御で攻撃を緩めるが、その隙に魔物の尾が彼女を弾き飛ばす。

• 美咲が治癒魔法で仲間を支援するが、魔物の猛攻は止まらない。


戦闘の最中、凛が魔物の攻撃を防ぐために仲間を庇う。その一撃が彼女の体を貫いた。

「凛!」

翼が叫び、千景も反射的に駆け寄ろうとするが、魔物の攻撃は容赦なく続く。


「まだ動ける……」

凛は立ち上がろうとするが、その体は傷と出血で限界に近づいていた。


美咲が治癒魔法を試みるが、凛はそれを拒否する。

「無駄よ……この傷は魔物の呪いを受けてる……魔法じゃ治らない。」


戦闘が続く中、突然遺跡全体に不気味な紫の光が広がる。仲間たちはその光に驚き、動きを止める。


「な、なんだ、この光は……?」

翼が周囲を見回すが、誰も答えられない。


紫の光は凛の体を包み込み、彼女の傷を穏やかに覆っていく。凛の表情は和らぎ、まるで深い眠りに落ちるように目を閉じた。


「凛が……消える……?」

美咲が驚愕の声を上げる中、凛の体が紫の光とともに淡く消えていった。


凛が完全に消失すると、紫の光も消え、遺跡は静寂に包まれた。


「一体……何が起こったんだ……?」

翼が拳を握りしめ、地面を叩いた。


「さっきの光……またあれか……。陽斗のときも……」

美咲は震えながら言葉を紡いだ。

「でも、どうして凛まで……?」


千景は何も言わず、じっと焚き火の残り火を見つめていた。


一方、現実世界では、凛が学校の体育館で目を覚ました。そこは、彼女が異世界へ転生する直前にいた場所と同じだった。


「ここは……?まさか……戻ってきたの?」

凛は周囲を見渡すが、異世界での記憶は断片的にしか残っておらず、全てが夢だったかのように感じていた。


「でも……あの人たちは……誰だったっけ?」

彼女の心には、ぼんやりとした「大切な何か」が残っていた。


彼女は小さく息を吐き、手を握りしめる。紫の光の痕跡がまだ薄く残っているような気がした。


「いつか、この力を使うことができなくなる日が来るかもしれない。それでも、私は……」


後悔と苦悩が浮かんだが、それを隠すように無表情を装い、眠りについた。

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