第2話 穏やかな朝
「いやあ、今日は土曜日というだけあって人通りも多いですね。そんな中でここ、西京の中心部、京駅の近い場所に新しいファッションビルが営業されました。どうですか財津会長。今日もカラフルな衣装で」
「まあ、私はいつもこの格好で来させていただきまして、色というものを大切にしてるんです」
「やっぱり、芸術大学卒業の会長は、センスがありますね。室内にも色々と凝ってるとか?」
「ええ、天井ガラスは一階からでも夜空が見えるように作成しました。私のこだわりです」
「これは早速行ってみたいですね。後、洋服店には、今季節は秋ということもあってフォールセールが行われてるんですかね?」
「ええ、今日と明日に、皆さんに足を運んでもらおうと、特に開店時間と、夕方五時に、もう一つ値引きセールを行うつもりです」
「ええ! これはお買い得です。会長、ビルは十八階建てではありますが、今のところ十一階まででしか営業してないんですよね?」
「ええ、まあ、予定よりも早くオープンしようと思いましてね。十二階からの飲食店や映画館はまだ開催はされてませんので、残念ながら来月から始まります。その為、皆様には三階にある洋服のセールを行います。定価の半額の洋服もありますので、是非ともお越しください」
「これは見逃せません。今テレビを観ている方も、まだ間に合います。夕方のタイムセールを狙うのもいいかもしれません!」
と、カメラ目線になりながら、マイクを片手に黒縁メガネを掛けた、男性のアナウンサーが意欲的にガッツポーズを見せているところで、バカバカしいと、真は部屋の薄型テレビの電源を消した。
——何が、タイムセールだ。
真は朝食を食べ終えた後、来月のコラムを書こうと思って、自室でノートパソコンを起動している最中だった。たまたま、朝のワイドショーの最中、今日から『アリア』という名前のファッションビルが予定よりも早い段階で営業された。
以前から、この話題は度々ニュースで取り上げられていた。とはいうものの、西京の中心部は今もなお、いろんなものが建設中であり、古いビル等がブロック解体で潰している。
時代を重ねて、若者向けの街にするようだ。
はあ、と、真はため息を吐いた。
どちらにしても、出不精な真にとっては興味が無い。
とにかく、今は仕事に打ち込まないと、締め切りまで迫っているのに。
彼の仕事は芸能人雑誌の一部にある、オカルト記事担当のジャーナリストだった。京とは違う、ビルが立ち並ぶ中心街にある天橋出版社に勤務している。
オカルト記事とはいえども、彼の場合は未解決事件を追っていて、色んな場所に足を運んでいる。
しかし、多数ある未解決事件を片っ端から解決するなんて、素人の彼にとっては無謀なことであった。
だが、ある事件をきっかけに女性探偵と出会い、その後にその未解決事件は解決し、彼はジャーナリストとしての階段を上っていったのだ。
その後、数々の事件に巻き込まれるのだが、あれよあれよ、その女性探偵と事件は解決に至る。この前なんかは、探偵や警察もいない洋館で、真一人でほとんど解決してしまった。
それは、あるものを飲めば急に頭が冴えてくるからであった。
すると、家のインターホンが鳴った。真はもしやと思って、二階の部屋にいた彼は急いで階段を降りようとすると、玄関で母親と宅配業者が持ってきた荷物のやり取りをしている。
「どうも、ご苦労様です」
彼の母親はそう告げて、宅配業者を帰らせると、後ろを振り返った。
「何、真どうしたの?」
「いやあ、誰の荷物だったかなと思って……」
「あんたのよ。これ、何? あんたお酒なんて買ったの?」
彼女は両手で荷物を見る。その外箱は酒と書かれていた宅配業者の資材の段ボールだった。
「まあ、俺もさ。もう二十三だしさ」
彼は観念した。何故なら伝票にも荷物の中身が酒と書かれてあったからだ。
「別にいいけどさ。あんたもお父さんのように、呑兵衛にならないように。お父さんなんて毎日大量のお酒を飲むから出世もしないのよ」
そう言って、ブツブツと悪口を言い放つ母親に、真は「ありがとう」と、荷物を受け取って、一目散にまた階段を上った。
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