真、旅の記録 6 新装ビル殺人事件

猫飼つよし

第1話 前日……

「会長、いよいよオープン間近ですね」

 歩きながら話したのは、会長の隣に歩いている、五十代の頭の禿げたダークグリーンのスーツを着た男である。

「ああ、私が待ちに待ったこの西京の中心部で、ついにファッションビルが完成する」

「隣のビルよりも高いから外観は明らかに目立ってますよ。早速テレビのニュースにも取り上げられてます」

「まあな。でも、私が一番お気に入りなのは、ここから夜空が見える天井だ」

 二人は立ち止まって頭上を見上げた。そこにはガラス張りになっていて、次の階にも同じようにガラスの天井が面面と映し出している。そこから、星までは見えないが、快晴の夜空が見える。

「私が一年以上かけて構想を練ってのアートな造りだ。どうだ、素晴らしいだろう」

 彼は顎髭を摩る。六十過ぎの初老であり、縞模様に色分けされたカラフルで奇抜なスーツを着ていた。運動はしていないが、わりかしスリムな体型でスーツが似合っていた。

 建築には一年以上かけてこのビルは完成した。建設会社と幾度も話し合いを重ねて、今回は安定さよりも、彼の芸術をメインとした仕上がりとなっている。

「確かに、素晴らしい。この中心部の手すりも、薄いブルーの色ですもんね」

 五十代の男性は彼を持ち上げるように、声高に言う。

「そうだ。私が何としてでもこの中心部にビルを。出来ればみんなが集う、ファッションビルを建てたかった。そして、完成出来た私は幸せ者だ」

「毎日お客さんが来たら、このアートチックな内観も気になり、会長の感性に興味が湧く方もいますよね」

「ああ、もちろんそうだ。フフフ」

 初老の男、会長の財津芳郎はニヤッと口角を上げて、頷きながら笑った。

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