秘密結社MOYASHI
元気モリ子
秘密結社MOYASHI
もやしは足がはやい。
賞味期限は2日そこらで、体感では1日だ。
スーパーでもやしを買ってから、私ともやしが共に過ごすのは1日、長くて2日、本気を出して4日間である。
つまりもやしは、刈り取られてから2日間そこらしか生きられない命、という訳だ。
もやしは大抵一袋200g〜大袋で500gある。
値段の割りにかさが高いし、腹も膨れ、季節など関係なく年中売り場に並んでいる。
かなり優れた野菜であるのに、不思議と「好きな野菜ランキング」には入ってこない。
私がもやしなら、ツーっと一筋泣いている。
刈り取られてから2日間しか保たないのに、一袋あたりかなりの量が入っていて、年中売り場に並んでいる。
お気付きだろうか。
怖いとは思わないか。
もやしにいつ育っている暇があるのか、と。
膨大な量のもやしが、毎日全国各地のスーパーに並び、凄まじいスピードで消費され、次の日も同じだけの量が売り場に並ぶ。
日持ちもしないので売り場は毎日循環する。
それなのに、もやし畑を見たことがない。
ひいては、もやし栽培に携わっている人にも会ったことがない。
お米における田んぼほど、もやし畑も目にしていないとおかしい筈だ。
怖いとは思わないか。
調べてみると、もやしは育つのに10日間ほどかかるらしい。
ということは、最低でもNo.1〜No.10の棟があり、それを順繰りに出荷していないと辻褄が合わない。
これが一度でも崩れると、明日のもやしは存在し得ない。
これらのことからも分かるように、膨大な面積のもやし畑がこの世に存在しない限り、これだけの量の日本中のもやしは賄えないはずなのだ。
もう一度言う。
それなのにもやし畑を見たことがない。
この世界のどこかに、もやしが無限に湧いてくる穴でもあって、それを「秘密結社MOYASHI」が囲っているのだろうか。
そして不可解なほど安い。
同様にハイスピードで育つ豆苗ですら98円するのに、もやしは38円だ。(私の住む町調べ)
色味は豆苗が勝つが、食べ応えはもやしも負けていない筈だ。
もやしを育てる人、袋詰めする人、運ぶ人、売る人、38円でどう考えても利益にならない。
ロボットが育てていないとおかしい。
理屈がわからない。
得体の知れないお手頃さが、私をより一層不安にさせる。値段の出所が分からないものは怖い。
それは高いものよりも、不思議と安いものの方が恐怖は増す。
例えば、お肉の安売り。
魚や野菜は、穫れ高や天候によって左右されるのだろうと見当が付く。ところがお肉はどうだ。
「豚肉特売DAY!!!」
どういう意味だ。
今日たくさん殺したってこと?と、私は訳が分からず、いつもと同じ値段で売られている高い方のお肉を買ってしまう。
もやしもそうだ。
なぜその値段なのか、裏打ちされる景色が何も浮かんでこない。
ミルクボーイが、コーンフレークに「生産者さんの顔が見えない」と言っていたが、私にとってもやしは、生産者さんの顔も浮かばなければ、もやしの生産スケジュールも何もかもが見えない。
もやしに関する誰かの汗水が想像つかない。
私は何に38円払っているのか。
敵の情報を握るには、向こうサイドのリズムを崩すしかない。
これまで、あまりにも華麗な流れに、私たちはもやしを好きかどうかを考える暇もなく、気づいた時にはもやしを食べていた。
もやしがボロを出さないので、もやしについて考えない、何も知らない、調べない、だからよく食べるのに「好きな野菜ランキング」にも入らない。
もやしはただそこにいるだけだった。
私は今日ももやしを2袋買った。
つまり、本日のもやし総生産から400gをせしめてやった。例えばこれを10名で行うと、総生産から4kgのもやしを奪うことになる。
これを繰り返すことで、もやしの生産ロットを崩してみたい。
そして「ごめんなさい!今日出荷する分のもやしが足りません!」という、もやし農家の生の声が聞きたい。もやし不足によって、もやしが10円値上がりする、そんな未来があっても良い。
私はほっとしたいのだ。
「あゝお前もただの野菜だったのか」と…
もやしが無限に湧いてくる穴などないのだと…
8時台のスーパーは、まだ生鮮商品の品出しが済んでいない。
日本の何処かから届いた段ボールを手に、大量のもやしを陳列する真顔の女性を幾度も見てきた。
夕方になるともやし売り場の底が見え、また段ボール片手に新規のもやしを陳列する真顔の男性が現れる。
笑顔で並べていても怖いが、もやしに対する感情を一切感じない。
もしかすると、秘密結社MOYASHIの一員かもしれない。
今夜はインスタントの背脂豚骨ラーメンに、大量のもやしを乗せてやろうと思う。
私はこのままもやしを食べ続け、ロット崩しを狙う。
そんな思惑に気付かれ、いつか秘密結社MOYASHIの幹部に肩を叩かれるかもしれない。
「君は知ってしまったんだね」と
そんな未来があっても良い。
秘密結社MOYASHI 元気モリ子 @moriko0201
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
昔話ばかりで悪かったね/山谷麻也
★18 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます