第237話 ダンジョン(仮)攻略開始

 地獄の穴のダンジョン化を発見してから数日後。

 迷宮都市での情報収集を終了した操人形マリオネが、ダンジョン(仮)の攻略を開始した。


 俺は操人形マリオネの視界を共有したモニターを観察して、適宜指示を出すことになっている。


 攻略メンバーであるリルとエンド、影兎シャドウラビたちは、二班に分かれて待機中。


 一班はリルがリーダーで、二班はエンドがリーダー。

 それぞれに影兎シャドウラビ三体を戦闘員兼運搬役として選抜している。

 また、魔力吸収要員としてフェリス、穢れ対策としてワンダーを一体ずつ入れておいた。


 現在は、リル班が操人形マリオネの影に潜み、出番を待っている状況だ。

 エンド班は俺のダンジョン内にいて、いつでも操人形マリオネの元に向かえるように準備が完了している。


『あー……しんどい……面倒くさい……』


 操人形マリオネが嘆く声が聞こえてきた。

 モニターには門が映っている。このまま進めば、ダンジョン(仮)の中に入れるはずだ。


「もう諦めろって」

『でもぉ、めっちゃ視線感じるんですよぉ。〈コイツ一人で進むつもりかよ〉〈そんな強いようには見えねぇな〉って言われてるんですよぉ。そんなに見ないでください……俺、強くないです……疑いの目で見られたら、魔物だってバレちゃうぅ』


 周囲に聞こえないくらいの小さな声で嘆く操人形マリオネに、俺は苦笑した。


 操人形マリオネが事前に調査した結果、このダンジョン(仮)は六人パーティで挑むのが推奨されている場所らしい。

 一部のエリアが人数制限されていて、一度で六人しか入れなくなっているのと、現れる魔物の強さを鑑みての評価のようだ。


 そんな場所に中級冒険者レベルの操人形マリオネが一人で入ろうとしていたら、悪目立ちするのも当然である。


「んー……狼族獣人に協力頼めばよかったか?」

『いえ、それはいらないです。この地域は亜人──人間以外の種族にちょっと偏見強めなので、喧嘩を売られる確率がむしろ上がりそうですし』

「なるほど、それじゃ、一人でがんばってもらうしかないな」


 俺が咄嗟に思いつくようなことは、操人形マリオネがすでに考え済みなようだ。

 でも、人間以外に偏見強めってなんでだろうな? 過去に何かあったんだろうか……。


『あーあー、行きたくない……』


 嘆きながらも足を止めずにちゃんと向かってる操人形マリオネ、偉いぞ!


「がんばれ、がんばれ、操人形マリオネ〜♪」


 歌って応援してみたら、俺の傍で寝そべっていたミーシャに呆れた目で見られた。


『……なんか音程が変にゃ』

「えっ、俺、音痴じゃないはずだぞ……?」


 予想外の評価に、俺は目を見開いて固まる。

 日本で生きてた時に、歌が下手なんて言われたことないんだけどな?


 職場の人と付き合いでカラオケに行くと、マイクが回ってくることが少なかったけど。

 それは、歌が好きなヤツに譲ってただけだし? わざわざそんなところで歌いたくなかっただけだし?


『気が抜ける歌なので、ない方がマシですね』

「ひどくね?」


 操人形マリオネからも辛口評価をもらって、ちょっとしょんぼりした。

 応援しようと思っただけなのにぃ……。


『さぁて、余計な力が抜けたところで、行きますよー』


 俺が八つ当たり的にミーシャをワシャワシャと撫でている間に、操人形マリオネがダンジョン(仮)内に突入した。


 モニターに岩壁が映る。

 これまで見た地獄の穴(一面が灰色の雲みたいな感じ)とは全然違っていて、ここをダンジョンと認識するのも仕方ない。


『最初のステージは洞窟タイプらしいです。俺たちのダンジョンと一緒ですねー』

「ダンジョンといえば洞窟っていうイメージあるんだよな。環境設定に消費するDPが少なくて済むし。そこが同じシステムなのかはわからないけど」


 真面目にダンジョン(仮)内を観察。

 見た目は俺のダンジョンの1階洞窟12階洞窟2と似ている。

 だが──


『……事前に調べた情報通り、岩とは思えない質感ですね』


 他の冒険者がいない行き止まりに来たところで、操人形マリオネが岩壁を短剣で斬りつけて観察した。

 岩壁はマシュマロでも切るかのように傷跡ができた後、ゆっくりと修復していく。


 そもそも傷がつかないダンジョンの洞窟とは大きな違いなのだが、人間はそういうことがよくわかっていないのか、〈特殊な洞窟ダンジョン〉という認識がされているらしい。


「変な場所だなぁ。地獄の穴も変な見た目だったけど、ここはそれにダンジョンの見た目だけ被せたみたいな……」


 そう呟いたところで、これが答えになり得るのでは、と気づいた。

 ミーシャに目を向けると、同じ考えらしく小さく頷かれる。


 地獄の穴に幻影か何かでダンジョンの見た目をつけたら、こうなるのかもしれない。

 となると、このダンジョンを管理する者がいるとして、それは〈幻覚〉的な能力の使い手の可能性がある。


『なるほどー。じゃあやっぱり、ダンジョンというより地獄の穴にいるものと考えておいた方がよさそうですね』


 そう言った操人形マリオネはすでに踵を返し、正しい攻略ルートに戻っていた。


 行き止まりの道から出てきた操人形マリオネと鉢合わせた冒険者が[お前、ソロな上に、地図持ってないのか?]と呆れた顔をしている。


 このダンジョン(仮)は、冒険者たちによって攻略済の場所はすべて地図が出回っているのだ。

 わざわざ行き止まりに行く者なんてそうそういない。


『あはは、地図は持ってますよ。ただホントに行き止まりなのか気になっちゃって』

[観光気分かよ。怪我する前に帰った方がいいぞ]

[ここは、最近噂されてる美食のダンジョンと違って、怪我しても出れば回復なんてスゲー仕組みはないからな]

[普通に死ぬぞ]


 同じ道を進む流れ上、同行することになった操人形マリオネに、冒険者たちが口々に注意する。

 世話焼きな人たちのようだ。


 そんな彼らと会話しながら、操人形マリオネは情報収集を続けていて、なんとも優秀で働きものである。インクと大違いだ。

 まあ、全部既知の情報だったけどな。

 そういう地味なことを辛抱強くできるのは、操人形マリオネが誇るべき才能だろう。


 帰ってきたら、美味い酒と飯を褒美として出してあげなきゃ。

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