第216話 一緒に考えよー

 カナメの状態が落ち着いたし、スイとコウがエンドと共にカナメを見ていてくれると言うので、俺は木偶ドールから本体へと意識を戻した。


 目を開けると、操人形マリオネがスルメを噛んでから、お酒を飲んでいる姿が見える。

 いつの間に、誰が、お酒を用意したんだ。


『マスターもおつまみいりますかー?』

「……いる」


 サクが熱燗と共にスルメなどの乾き物を差し出した。

 ここにいたな、犯人(?)。

 遠慮なく受け取り、グッと背筋を伸ばす。

 色々と考えて、ちょっと疲れちまった。酒とつまみで癒やされよう。


「はあー……ほっこり……うまぁ……」

『語彙力が溶けてますね』


 操人形マリオネが密やかに笑い声を上げる。

 そんなに面白かったか? 俺は普通に酒飲んだだけなんだが。


 片眉を上げながら、モニターに視線を向ける。

 現在モニターは三つ。

 一つには、カナメたちの様子を映している。

 もう一つはダンジョン内の映像をランダムに。……あ、イサムが訓練所にいる。よしよし、たくさんDPくれよー。


「お、リルたち、超スピードで駆けてるな」


 最後のモニターに視線を向けて、俺は予想通りの映像に苦笑した。

 その映像はまたフェリスの視点を共有させてもらったものだ。


 フェリスを背負った影兎シャドウラビの前を駆けるリルは、現れる魔物を炎や風でふっ飛ばし、一撃で倒している。エンドより容赦がない。


 フェリスを通して入手する魔力だけで、ダンジョンにとっては十分な利益だから、魔物を持ち帰ってDPを入手する必要はないと判断しているのだろう。

 俺もリルの判断は間違ってないと思う。


 フェリスを通して入手できる魔力量を考えたら、魔物から得られるDPなんて誤差みたいなものだ。

 魔物の解体を担う狼族獣人たちの負担も減るし、これでいい。


「フェリスたちの増殖がすごい……」


 ふと映像を眺めながら呟く。

 映像には必ずフェリスたちが二体以上映っている。魔力を吸収しては増え、を繰り返しているのだ。

 今はダンジョンに持ち帰るよりも、魔力を根こそぎ奪うことに集中しているらしい。


 リルたちが通り過ぎた後にはたくさんのフェリスたちが残り、魔力を吸収し続けているはずだ。


 モニターを眺める影兎シャドウラビたちは、フェリスを運びたがっているのかソワソワしていた。


 ふむ……


影兎シャドウラビたち、向こうに遊びに行って、魔力を蓄えたフェリスたちを連れ帰ってくれ。何度も繰り返せば、いい感じに魔力を集められるだろ」


 効率的ではないけど、お仕事をしたがっている影兎シャドウラビたちにはちょうどいいはず。

 その予想はバッチリ当たっていたようで、キラキラと輝くたくさんの瞳が俺を見上げた。


『『『いってくる〜!』』』


 わぁいおしごとだ〜、と跳ねて影に飛び込み姿を消した影兎シャドウラビたちは、随分と楽しそうだった。


 もふもふで可愛くてお仕事大好きなんて、いい子すぎるな!

 ご褒美のお野菜と果物を用意しておかないと。


『おー……今日は楽できそうでいいですねぇ』


 ホッと息を吐いてニコニコ笑っているのはインクだ。

 普段は暇を持て余している影兎シャドウラビたちの遊び相手(強制的)になって疲れきっているから、解放されて安心する気持ちはわからないでもない。

 まあ、それよりも、お前も働けよ、と言いたくなるんだけど。


 インクは一応ダンジョン内で冒険者対応の仕事をしていることもあるけど、基本的に女性冒険者しか相手にしないから、その機会自体が少ないんだよなぁ。

 冒険者って、ほとんどが男だし。


 何か仕事をさせようにも、その仕事もあまりないのが問題だ。


「……ここで暇してるなら、考察くらいはがんばってくれよ」


 リルが映るモニターを視線で示しながら言う。


 邪神関連とか、ミーシャ並みに色々と考えてくれるなら、ちょっとは役に立ちそうだ。

 インクはダラけるのが好きなだけで、バカなわけではない……はずだし。


『ああ……なんか面倒くさいことに関わってるんですよねぇ。邪神への足掛かりになるかもしれないのは、いいことですけど』


 ぐてー、と寝そべった体勢で、インクがモニターを見上げる。

 その眼差しはぼんやりとしていて、ちゃんと考えているとは思えない。


 影兎シャドウラビを嗾けてやろうか? 呼べば、あの子たちは即座に馳せ参じてくれるはずだし。


『──あ、そういえば!』


 俺の目から考えを察したのか、インクが慌てた様子で体を起こし、ピッと指を立てる。


「なんだ?」

『あの、カナメって狐、邪神(?)との繋がりを断つためにも、早めにこのダンジョンに取り込んじゃった方がよくないですか?』

「取り込む……どうやって?」


 何を言い出したのやら。

 それができたらいいけど、その方法は俺もわからないぞ?


 俺がきょとんと首を傾げると、インクは『あれ?』と呟きながら、パチパチと目を瞬かせる。


『そういうの、ないんです? さっきなんか言ってたでしょう、ミーシャに』

「……ああ、従魔の話か? でも、そういうのはないって、ミーシャは言ってたしなぁ」


 酒を口に運びながら悩む。

 カナメを俺の従魔にできたら、ダンジョンに取り込むのとイコールではあるのだが。そもそもそんな能力を俺は持ってない。


『でも、それって、ダンジョンマスターの能力とほとんど同じですよね?』


 何が違うのか、と言いたげな顔をしているインクをジトッと見つめ返す。


「いや、それはそもそもこのダンジョン生まれの魔物限定だから。よその魔物は適用範囲外だぞ」

『そうなんですか? マスターならできそうですけどねぇ』


 インクは『ふーむ?』と考え込んだ。

 それを見ながら俺も実行可能かを考えてみる。インクがそこまで言うなら挑戦してみるか?

 つーか、確かDPを使えば特殊なスキルを習得できるはずだから、そういう系のスキルがないか調べてみるのが先か。


 タブレット端末を手に取り、【ダンジョンマスターのスキル】を検索してみる。


 魔法とか攻撃系スキルがたくさん並んでいてちょっと心惹かれるんだけど、俺が使う機会はほぼなさそうだから、DPがもったいないよなぁ。

 邪神に会ったら一発食らわせたいし、一つくらいは覚えてもいいかもしれないけど……。


 そんなことを考えながらスキルを眺めていると、気になるものを発見した。


「……【誓約】スキル……?」


 お、これは使えるかも?


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