第199話 難易度調整は苦手

 焔鳳凰フレイムフェニックスが現れて固まっていたミリエルとマルトだったが、さすがA級冒険者というべきか、動揺を抑えて動き始めていた。


 まず、二人はアイテムバッグから取り出した装備をサッと身に着ける。高温環境への対策用の装備のようだ。


 ちなみにアイテムバッグの中身も幻影で再現しているから、問題なく使用できるぞ。

 回復薬などの消耗品は、ここで使うと現実の方でも没収してDPに変える仕組みになってるけど。


[肌が焼かれるかと思ったわ……]

[いきなりマグマ地帯は心臓に悪いな……]


 ボヤきながらも、ミリエルは水魔法を放ち、マルトは剣撃を飛ばす。

 その攻撃を焔鳳凰フレイムフェニックスは悠々と飛んで躱した。


[空を飛ぶ強敵なんて、一番厄介よね]

[それな。しかも、有効的な対策すら事前に用意できずにいきなり戦うとか、マジ無理……]


 地の利がある強敵に、だいぶ苦戦している様子だ。

 まだ焔鳳凰フレイムフェニックスが攻撃してきていないというのに、若干諦めモードに入っている気がする。


 レベルで考えると二人の方が強いと言えるんだけど……環境の影響と空を飛ぶという特性は、少しのレベル差を無意味なものにするようだ。


 それでも、ミリエルは魔法でマルトの空中戦を補助したり、焔鳳凰フレイムフェニックスに高威力水魔法を食らわせたりと、なかなかいい戦いをしているように見えた。


 マルトも、ミリエルの補助を受けて宙を蹴り、焔鳳凰フレイムフェニックスに直接剣撃を与えたり、召喚された眷属(マグマから這い出てきたトカゲのような魔物)を一撃で倒したりと、素晴らしい活躍だ。


「ほー……どっちも強いなぁ……」


 鑑賞している俺は、もはや怪獣映画を見ているような気分。

 ダンジョン内では、ここまで迫力のあるバトルシーンが繰り広げられることはほとんどなかったから、凄く楽しい。

 火が絶え間なく降り注いでる光景は、普通に世界の終わりみたいな怖さがあるけど。


『赤い鳥ー、そこだー、殺れ殺れー!』

『今の一撃、最高にゃ!』

『お、この人間たちも、なかなかやりますね』


 リルとミーシャ、インクも楽しそうに観戦してる。

 でも、リルの応援はだいぶ殺伐としてるなぁ。さすが魔物。ほのぼのとしているように見えて、いきなり殺意100%な発言をする。


『ボクたちもたたかいたい〜』

『いいな〜、このトリ、つよそう〜』


 影兎シャドウラビたちもモニターに映る光景に目を奪われ、ウズウズしている様子だ。

 この子たちの分のアバターも用意するべきかな? ……一度に五体まで、とか制限をつけよう。さすがに全員分のアバターを用意するのは、DPの無駄使いだ。


[クッソ! 全然ダメージが入ってるように見えねーよ!]

[こっちの体力が消耗するばかりね、っ]


 息切れしたマルトと背中合わせに立ったミリエルも険しい顔を見せる。

 焔鳳凰フレイムフェニックスは眷属召喚で次々に魔物を出してくるから、二人で対処するのは大変そうだ。焔鳳凰フレイムフェニックス自身も攻撃を止めないし。


 ミリエルは二人を覆うバリアを張って、一旦休憩をとるようだ。

 ドカッと地面に腰を落として座り込んだマルトは、バリアを叩くトカゲ型魔物を気味悪そうに眺めながらも、体力回復に努めている。


[貴方、まだいけそう?]

[ギリギリだな……正直、このまま戦い続けても倒せる気がしねえ]

[そう……私も、さすがに魔力が底をつきそうなのよねぇ……]


 お互いの状態を確認しあった二人は、顔を見合わせて肩をすくめた。

 何かしらの結論が出たらしい。


[装備の耐久値もヤバそうだし、リタイアするか]

[そうね。ここで無理して戦う必要はないわ]


 え、マジ? 結構いい勝負をしてそうだったのに、思ったより呆気なく負けるんだな?


 唐突な終了宣言に、俺は思わず目を丸くした。

 リルたちも『えー……』と声を漏らして残念そうだ。


焔鳳凰フレイムフェニックスなんて伝説級の魔物まで出てくるとは思わなかったぜ……]

[ここのダンジョンマスター、頭がおかしいんじゃないかしら]


 いきなりディスられたんですけど。遺憾の意。

 ムスッと口を歪めた俺の代わりに、リルが抗議の声を上げる。


『マスターは頭がおかしいんじゃないよ! 人間の常識から外れてるだけ!』

「ぐふっ……」


 思わぬところから攻撃が飛んできて、うめき声が出た。

 リルのそれ、俺のことをディスってるよな? え、もしかして反抗期? 悲しくって泣いちゃうぞ?


 ……まあ、俺はダンジョンマスターですし? 異世界生まれですし? こっちの世界の人間の常識なんて、ほとんど知らないから、外れちゃうことが多いのは事実なんだけどな!


 内心で盛大に拗ねながら、ミリエルたちの会話に耳を傾けた。


焔鳳凰フレイムフェニックスなんて、実際に現れたら、勇者を呼んで倒す魔物だよな]

[現れた場所を放棄する可能性の方が高いけどね。勇者を向かわせる前に、あっという間に出現した一帯が破壊されるでしょ]

[それはそう]


 マルトとミリエルが頷き合う。

 焔鳳凰フレイムフェニックスって、やっぱりそんなに脅威な魔物なのかー。レベルだけで判断しちゃダメだったんだな。


[──でも、まあ、いい経験にはなったな]

[そうね。死を覚悟せずに伝説級の魔物と戦えるなんて、他では経験できないもの]


 なるほど。エクストラエリアの有用性は理解してくれたようだ。

 それなら問題ないかな、とホッとしたところで、二人から思わぬ発言が聞こえてきた。


[この感じだと、神狼フェンリル古竜エンシェントドラゴンが出てくる可能性もあるんじゃね?]

[さすがにそれはないでしょ。勇者がダース単位で必要な魔物に、数人の冒険者で挑ませようなんて、鬼畜すぎる所業よ]


 ギクッ……そうなんですか?


 固まった体を動かして、リルの方を見た。

 きょとんとした顔をしてる。リルは今日も可愛いなぁ。

 モフタマたちの方を見ると、みんなのベッドになってお休み中のエンドの姿もあった。とてもほのぼのしていて素晴らしいと思います。


 ……この二体、人間たちからすると飛び抜けてヤバい魔物らしい。

 あまりに近しい存在だから、何度聞いても全然実感が湧かないけど。


 とりあえず、エクストラエリアの設定をいじって、神狼フェンリル古竜エンシェントドラゴンは出現しないように調整する必要がありそうだ。

 他にも、ヤバそうな魔物は出現しにくいようにしておこう。

 ほぼクリアできないなんてことになったら、利用者がいなくなっちゃうし。


 やっぱり一切の修正なしっていうのは無理だったな。

 ミリエルたちが最初に来てくれてよかった。いろんな意見をくれてありがとな!


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