第185話 もふもふ教の信仰者

 ふれあい広場計画は大体の準備が終わった。あとは、実際にもふもふ教の支所が完成するのを待つのみ。


 ただ、もふもふ教についてはまだするべきことがある。


3B階密林遺跡内の祈りの間の扱いをどうするかなぁ……」


 ぽつりと呟くと、影兎シャドウラビたちを目で追っていたミーシャが俺を見上げた。

 ミーシャって、猫の本能的に、動くものを凝視する癖があるんだよな。可愛い。


『もふもふ教の総本山にするんじゃないのかにゃ?』

「そうなんだけど、外でお守りを配り始めたら、存在意義が薄くなるだろ?」


 俺は腕を組んで考え込みながら心配事を告げた。

 現在、3B階密林遺跡の祈りの間にはお守りを目当てに信者が日参してきている。彼らから得られるDPは、決して無視できない。

 3B階密林遺跡に来られる者はそれなりの実力者であり、能力が高いものほど一人当たりのDP収益が大きくなるからだ。


 ダンジョン運営だけでなく、邪神探索レーダーのためにも、DPはあればあるほどありがたいものである。

 少しでも収入源は多く持っておきたい。

 だからこそ、外にもふもふ教の支所ができて、ダンジョンを訪れる冒険者の数が減ることは問題なのだ。


『本気でもふもふ教を信じている者が増えてるんだから、総本山をよりありがたみがあるものにすればいいにゃ』


 ミーシャがポイッと軽い感じで答えをもたらした。

 総本山をありがたみがあるものに──つまり、お守り以上の利点を用意しろ、ということだろう。

 でも、お守り以上のありがたみってなんだ?


『やっぱり、威厳のあるもふもふが必要なんじゃないかなー』


 リルがキラキラと輝いた瞳で提案してくる。

 威厳のあるもふもふって、リル自身のことか? 神狼フェンリルっていう、凄い魔物だけど、一見すると人懐っこいワンコにしか見えないのに?


 じぃっとリルを見つめる。

 リルは俺と見つめ合うのが楽しいようで、ブンブンッと尻尾を振っていた。


「……やっぱ可愛いワンコだろ。威厳、とは……?」

『えーっ、僕、威厳ある感じにできるよ!』


 心外そうに言ったリルが、もふもふの胸を張る。

 キリッとした顔を取り繕っているけど、俺には飼い主に褒めてもらいたがってるワンコにしか見えない。


『ふふ、リルをご神体として、信仰深き者たちにその姿を見せてあげるのはいいでしょうねぇ。もふもふ教に神狼フェンリルの後ろ盾があると匂わせることで凄い宗教だと認識させるんです。信者はより信仰心を持つでしょうし、他の人もこのダンジョンに容易く歯向かうことができなくなりますよー』


 サクがのほほんとした口調で恐ろしいことを言う。

 でも、それをしたら、これまでリルたちの存在を隠してきた意味がなくならないか? 俺は友好的な人間たちを、無闇矢鱈に脅かすつもりはないんだけど。


 俺が悩んでいるのがわかったのか、影兎シャドウラビたちが心配そうに見上げてきた。


『マスター、だいじょうぶ〜?』

『リルをそのままみせるんじゃなくて、げんえいっぽいかんじにするのはどう〜?』

『かみさまって、ふつう、そのままあえるものじゃないからね〜』


 影兎シャドウラビたちの提案に、俺は「それだ!」と指をパチンと鳴らした。


 神狼フェンリルっぽく見えるけど本物かどうかはわからない、でも、神より近い存在で後ろ盾になってくれれば心強いと感じる──そんな風に、もふもふ教の神の姿を作るのはいい案な気がする。


 元々、3B階密林遺跡の随所に神狼フェンリルをモチーフにした装飾を施し、祈りの間の中にも堂々とした神狼フェンリルらしき姿の像を置いている。だから、神の姿が神狼フェンリルだというのはすんなりと納得されそうだ。


 リルの姿を幻影のように見せることで、邪神や偽神よりも身近で、実行力を持って守ってくれそうな神の存在を信者に知らしめられるはずだ。

 それは、もふもふ教への信仰力を高め、ひいては神殿(偽神)の力を削ぐことに繋がる。


「うんうん、いい案だな。じゃあ、祈りの間に来る回数が多いヤツで、さらに本気でもふもふ教を信仰してそうなのをピックアップして、神の姿を見せてあげようか」


 信仰へのご褒美として情報が広がれば、神に会いたいがために祈りの間に来る信者も出てくるはず。


 タブレットを操作して、冒険者の情報を調べる。

 ダンジョンの運営のための情報は、ここに自動的に集められているのだ。


 その結果わかったのは──


「……一番訪問数が多くて信仰心が篤いのはラッカル……?」


 あまりに予想外な情報に、目が点になる。


 ラッカルといえば、最初に操人形マリオネを含めた一団で祈りの間調査に来た冒険者の一人である。

 リーダー的役割で、冒険者ギルドからの信頼も厚い。


 まあ、調査の際に操人形マリオネに疑いを抱き、このダンジョン周辺から追い出すようなことをして、その結果、冒険者ギルドから勇者の動向を探るよう強制的に依頼を受けさせられるという、ちょっと不憫なタイプでもあるのだが。


「常識人枠のラッカルが、なんでこんなに信仰してるんだよ……」


 一番わからないのがそれ。

 なぜ祈りの間に日参し、これほどまでに篤く信仰しているのか──ヤバい薬でもやったか?


 頬を引き攣らせながら俺が呟くと、影兎シャドウラビたちが『あ〜……』と声を漏らして、一斉に目を逸らした。

 おい、その反応はなんだよ。すげぇ嫌な予感がするんだけど!?


『あ、ボクたち、おやつのやさいをもらいにいってくるね〜』


 リルの影に影兎シャドウラビたちが次々に逃げ込もうとする。

 その内の一体に向けて、俺は指を振った。


「【おいで】」

『ふあ〜っ』


 ダンジョンマスター能力発動。

 配下の魔物を強制的に手元に呼ぶことができる能力だ。


 俺の腕の中に捕まった影兎シャドウラビが『ウサギはもうおしまいです……』と言うような諦念に満ちた表情で固まる。


 そんな罠にかかったタヌキみたいな顔をするんじゃない。可哀想で可愛くて、尋問できなくなるだろ。


 罠にかかったタヌキって、なんであんなに諦めが早くて鈍くさい感じなんだろうな。


「さぁて……お前たちがラッカルに何をしたのか、教えてもらえるかな? うん?」


 俺を見上げた影兎シャドウラビが『てへ〜』と笑って誤魔化そうとしてきたけど、今日はちゃんと話してもらうからな。


 もふもふ可愛いは正義だ。でも、それは時と場合があるんだよ。

 俺はもふもふ狂いと言われることがあるけど、甘やかしてばかりじゃないんだからな!


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