第168話 勇者一行の挑戦⑩

 魔女コスプレ。

 その言葉を見て、普通の人はどのようなコスチュームを想像するだろうか。


[マジでこのダンジョンのマスターの趣味、意味わかんねぇな……]

「遺憾の意」


 ドロンが目を瞑って苦悩する表情で呻いた言葉に、俺は不満をこれでもかと詰め込んで言い返した。


 もちろんドロンには届かないとわかってる。でも、声を大にして言いたい。

 これは俺の趣味なんかじゃない!


[うーん、さすがに恥ずかしいね。あはは]


 垂れ幕で制限トラップの内容が明らかになった後、すぐに現れた宝箱の中身を、歩夢は躊躇いなく装備している。


 ──それは間違いなく魔女のコスチューム。

 黒のトンガリ帽子に黒のマント、黒のミニワンピースとニーハイソックス、黒のブーツだ。


 恥ずかしいと言っているわりに、歩夢はなんとも堂々とした立ち姿。

 勇者らしい鍛えられた体格には絶対に似合わないはずなのに、こちらが違和感を覚える方がおかしいのでは、と思わせるほどにあっけらかんとしている。


 ……おかしい。

 この制限トラップって、普通は精神ダメージも負うものじゃないか?

 でも、歩夢は全然そんなダメージを受けてるようには見えないぞ。


 まあ、前にメイドコスプレも嬉々としてこなしていたんだから、それも不思議ではない……こともないだろ、絶対!

 一旦は納得しようとしたけど、無理だった。


 頼むから、もっと嫌がってくれ! 親友のそういう新たな一面とか、俺は知りたくねぇんだよ!


「俺の中の歩夢像が崩れるぅ……」


 顔を覆って俺が嘆くと、肩にポンと柔らかなものが触れた。ミーシャの尻尾だ。

 俺が視線を向けると、ミーシャが目を細める。


『そんなの今更じゃないかにゃ?』

「追い打ちかけてくんのはやめてくれないかな!?」


 俺の可愛いもふもふは、たまにシビア。そういうところも好きだけど、今はいらない……。


[またほうきをゲットできて嬉しいな]

[そうかよ……]

[また、ほうき無双が始まるのね……]


 魔女コスプレ装備として一緒に出てきたほうきを手にして笑っている歩夢に、ドロンとリーエンが遠い目をしてる。


 俺も同じ気持ちだぞ。この光景、メイドコスプレの時にも見たもんな。

 ほうきで戦う勇者ってなんだよ、って感じだ。魔女なら魔法の杖でよくない? なんでほうきをチョイスしたんだよ。そりゃ、ほうきで空を飛ぶイメージはあるけどさ。


[ドロンたちもさっさと制限トラップを引いちゃってよ]


 思考停止してる俺たちのことをまったく気にせず、歩夢がドロンたちを促した。

 死んだ目をしたドロンが、一歩前に進む。その際に[すげぇ嫌な予感がする]と呟いていたのが、不吉に感じられた。


 固唾を呑んで見守っていると、これまでに何度も聞いたラッパの音が高らかに響いた。

 それと同時に、バサッと垂れ幕が下がる。


【制限:装備 *魔法少女コスプレのみ可】


[…………は?]


 ドロンが固まる。

 歩夢は[似た系統で来たね。ドロンの方が可愛らしくなるかな]と楽しそうだ。

 それを聞いたリーエンは[魔女と魔法少女は違うの?]と頬を引き攣らせながら尋ねた。


 魔女と魔法少女、かぁ……。

 うん、違うよな。なんっつーか、魔法少女の方がより幼い子向けっていうか、カラフルで可愛い印象がある。

 それをドロンが着るのか……南無!


 ドロンの精神が致命傷を負う未来を察して、俺は静かに手を合わせた。

 大丈夫だ。コスプレをしたところで、命に別状はないはずだから!


[……ダンジョンマスター、クソが]


 現れた宝箱の中から魔法少女コスプレを取り出したドロンが、膝をついたままシンプルな悪態をついた。


 俺が用意したわけじゃないけど、制限トラップを設置した責任者として、この悪態は甘んじて受けねばなるまい……。


『クソってひどーい』

『ピンクいろのフリフリ、かわいいのに〜』

『ゆうしゃといっしょで、みじかいスカートだね〜』

『……まあ、確実に似合いはしないにゃ。可哀想だにゃ』


 プンプンと怒っているリルや影兎シャドウラビたちの中で、ミーシャだけがドロンに同情的だった。


[……着替える。リーエンもさっさと制限トラップ引いとけよ]

[この流れ、絶対にダメな感じよね……]


 ドロンが死んだ顔で立ち上がり、リーエンを促す。


 ここでリタイアではなく、ちゃんと制限トラップをこなすという選択をしたところに、ドロンの漢気(?)を感じた。涙が出るよ。


 もぞもぞと装備を変えるドロンから目を逸らし、リーエンが制限トラップを引く。

 そのどんよりとした雰囲気とは裏腹に、高らかにラッパの音が響いた。


【制限:人型 *五秒後に[使い魔]の姿に自動変身します】


[は?]


 ポカンと口を開いたリーエンが、モクモクと白い煙で覆われた。


[リーエン!]

[装備じゃなくて変身のパターンだったね]


 ぎょっと手を伸ばしたドロンの隣に立つ歩夢は、楽しそうに分析してる。


 歩夢と同じことを俺も思ったよ。

 変身って、歩夢が子猫になったり、ドロンやリーエンがニワトリやリスの姿になったりしたのと同じことだよな。

 使い魔っていうのがよくわかんねぇけど。


 モニターを見守っていると、次第に煙が薄れ、リーエンの姿が見えるようになった。


[ポヨポヨしてる]

[……ポヨポヨだな]


 歩夢とドロンが真顔で呟いた。

 リーエンも自分の姿を確認して、[なんなの、これ……]と困惑した感じで体を揺らす。


 その姿は白い楕円の球体に、ウサギの耳のようなものがついた、奇妙な生き物だった。

 手足や小さな丸い尻尾はあるけど、頭部と胴体の境になるようなクビレはない。

 全体的に丸っこい姿は可愛らしいけど、明らかに普通の生き物ではなさそうだ。


「可愛いから、これはこれでいいんじゃね?」

『能力がそのまま使えるなら問題なさそうにゃ』

「あ、その問題があったな」


 目を逸らしたい歩夢やドロンの装備と比べたら、見た目の可愛さは雲泥の差。

 正直、これから歩夢がほうき無双をするなら、リーエンはただのマスコットな感じでもいい気がする。


 ──魔女(男)と魔法少女(男)と丸っこいマスコットキャラの組み合わせでダンジョンを攻略する光景は、激しく違和感があるだろうけどな!


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