第153話 続・特殊設備作り

 3B階密林遺跡にリルが設置した制限トラップは、多少確率をいじっているとはいえ、ランダム性が強い。

 だからこそ、ダンジョンマスターの俺や設置者のリルでも驚くような、よくわかんない制限が発生するのだ。


 ……ほんとにランダムだよな? 変な制限(?)が出すぎじゃないか?


 改めて考えて湧いてきた疑念を、今はひとまず頭を振って忘れることにする。

 有名な哲学者も言ってただろ──『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』って。

 俺は深く考えた結果、わけわからん制限トラップと同じ精神性になるなんてこと、断固拒否する!


「ランダムじゃなく、指定した制限トラップが発動するように設定するか……?」


 うーん、と悩みつつ俺が呟くと、リルに『えっ!?』という顔で凝視された。ミーシャや影兎シャドウラビたちもちょっとガッカリした雰囲気だ。

 え、なんで?


『マスターが指定したら、面白くないトラップになる気がするにゃ……』


 ミーシャの言葉に、俺は反射的に「どういう意味だよ!」とツッコミを入れる。

 ランダム性の制限トラップのような意味不明さを求められるのは困るけど、面白味にかけるって評価されるのもちょっと納得できないぞ。


『……えっとぉ、悪くはないんだよ? ただ、やっぱりお笑い要素が欠けるかなーって思うだけで』


 リルがちょっと目を逸らしつつフォローしてくれた。

 けど、それほんとにフォローか? お笑い要素って、果たしてダンジョンに必要なものなのだろうか……? 俺、もうちょっと精進すべき?


 お笑いを極めようとするダンジョンマスターという概念の発生に、なんとも言えない気分になる。

 何かが間違っている気がしてならない。


『ゆうしゃはたのしみたいんだから、おわらいようそはひっすだとおもうよ〜?』

『ボクもたのしいのがいい〜!』

『ニャンコになろ〜!』

『つぎはウサギでしょ〜?』

『なかま?』

『なかまではない』


 影兎シャドウラビの中でも冷静な一体がツッコミを入れてくれた。

 うん、歩夢を仲間って思ってくれるのは嬉しいけど、それがウサギに変えられたから、って理由なら歓迎できないぞ。どんな顔をして見てたらいいんだよ。


 ……よく考えると、最初の制限トラップで変えられたメイド(箒装備)も、中身が歩夢って考えるとしょっぱい気分になる。アイタタタッ、って感じ。

 本人がすげー楽しそうだったのが、さらに困る。親友の知らなかった(知りたくもなかった)一面を見てしまった気がする。


「俺の精神を守るためにも、指定した制限トラップだけが発動するようにしたいところだけど……」


 言葉を切って、リルたちに視線を向ける。


 リルのつぶらな目が俺を見つめている。

 その目は『……マスターが望むなら、僕は反対しないよ?』と残念そうにしながら告げていた。


 ミーシャの細められた目がキラリと光る。

『面白味がないマスターだにゃあ……』と責めるように。


『つまり、マスターがゆうしゃたちにニャンコになるようきょうせいするってこと〜?』

『つぎはウサギだよ〜!』

『ワンコかもよ〜?』

『メイドもあったよね。それなら、ドレスもありじゃない?』

『みずぎは〜? ろしゅつ〜!』


 影兎シャドウラビたちの無邪気な提案にゾッとした。

 俺がそんな変な制限トラップを指定しないといけないのか!? 確実に人として大切な何かを失う気がする!


「──よし、3B階密林遺跡と同じく、ランダムにしよう!」


 あっさりと意志が折れた。

 いいよな、ランダムって。俺がその内容に責任を持たなくていいんだもん!


『そうこなくっちゃにゃー』


 ミーシャがニンマリと笑った。チェシャ猫っぽい。

 確実に、俺がこう決断するように誘導してただろ。


 つーか、みんな、俺の想像以上に制限トラップを楽しんでたんだな……。

 その楽しみを奪おうとした俺が悪かったのか。


『マスターはモフモフたちに甘いですねぇ』


 サクが微笑ましげに俺を見つめてくる。

 悪かったな。俺はもふもふ教の一員だから、もふもふに甘いのは当然だろ!(自棄)


『俺にも優しくしてほしい……』


 未だに影兎シャドウラビに群がられ、顔しか見えないインクが生気の薄い目で呟く。


 男夢魔インキュバスに相応しい雰囲気だぞ。だから、優しくする必要性は感じません。影兎シャドウラビたちの遊び相手がんばれ。もふもふまみれだけど、少しも羨ましくない。


『それは無理というものでしょう』

『しくしく……』


 サクにもにこやかに見捨てられたインクは、わかりやすいウソ泣きをしていた。

 そういうところが、インクが軽く扱われる理由の一つじゃないか?


「とりあえず、制限トラップを設置するか。それにプラスして、普通のトラップも仕掛けないとな」


 ほぼ3B階密林遺跡の焼き直しになるのがちょっと気にかかる。

 歩夢に手抜きだって言われそう。


『じゃあ、最初に幅十メートルの落とし穴を設置するにゃ』

「鬼畜かよ。それ、人間の走り幅跳びの世界記録を超えてるぞ?」


 ミーシャの提案に反射的にツッコミを入れる。


 いや、勇者になってるんだから、意外といける? ドロンも身体能力高そうだから大丈夫かも。

 ……制限トラップで変なものを引き当てなければ、だけどな!


『またリーエンに厳しいゾーンになりそうですねぇ』


 のほほんと呟かれたサクの言葉に、俺は無言で両手を合わせた。

 悪いな、リーエン! 勇者の能力基準で考えると、どうしてもこういうトラップにならざるを得ないんだ。


『魔法が使えるなら問題ないんじゃないかな?』

「お、確かに!」


 リルの言葉で、リーエンに救いの光が差したと思った瞬間──


『風属性魔法の威力を上げる装備がない状態で、リーエンはどこまで活躍できるんでしょね?』


 インクが冷静にリーエンの苦境を予想した。

 そうだった、俺、すごいレアアイテムを奪ってるんだった。それを返すためのダンジョンを作ってるんだよ。


 改めて考えると、装備を返すためのダンジョン(面白いもの)に頭を悩ませてるダンジョンマスターって随分とおかしくない?


「……リーエンは風属性魔法以外にも強力な魔法を使えるって、きっと!」


 そういうことにしてください。


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