第272話 もふもふパワーで祈ろう

 羽紗神様うさかみさまと交信できるぬいぐるみ。


 ……うん。見た目は普通のウサギのぬいぐるみだな。

 これでどうやって羽紗神様うさかみさまと交信するんだ?


 チラッと偽神を見てみたけど、歩夢に攻撃されてて話す余裕はあまりなさそうだし、あったとしても俺に教えてくれるような親切心は持ってないだろう。


「うーん……とりあえず、お祈りしてみるか」

『マスターが変な宗教にハマってるにゃ……』

「それ、今さらすぎないか?」


 ちょっと引いてる感じのミーシャに俺はあっけらかんと答えた。


 俺はもふもふ教徒だからなー。

 冗談で作った宗教だけど、俺にベストマッチした教義だから、今はわりと馴染んでる。


 もふもふは至高だー!

 ただし、エセタヌキと偽神(キツネの姿)は除く。


 ミーシャは『そもそも最初からおかしかったんだにゃ……』とため息をついていた。


 おかしいわけじゃないんだけどな?

 俺は真面目にもふもふ愛を日々高めてるだけだぞ?

 こんだけたくさんの可愛いもふもふに囲まれて、愛さずにいられるヤツなんている?


 心の中でもふもふ愛を語りつつ、言葉には出さない。

 ミーシャや歩夢に呆れられそうだし。

 ……すでに呆れられてる気がしなくもないけど。


 それはともかく。

 俺は地面に座り込み、前に置いたウサギのぬいぐるみと見つめ合った。


 一応、ご神体(?)の写し身のはずだから、ぬいぐるみは用意しておいたフワフワの座布団の上に座らせてあげたぞ。

 赤色のフワフワの上に白ウサギのぬいぐるみ──うん、可愛い!


「祈るって何をしたらいいんだ?」

「神社ならお賽銭を入れて、柏手を打つよね」


 俺の疑問に、歩夢が答える。

 なるほど。ここは神社っぽい見た目の建物だったし、羽紗神様うさかみさまへのお祈りもそこでの作法に則ってやってみればいいかも。


 ということで、まずはお賽銭だな。

 ……お金、こっちの世界のものでいいのか? 羽紗神様うさかみさま使えなくない? まあ、お賽銭自体、神さまが使うものじゃねぇけど……。


 悩んでいると、ワンダーがテテッと駆け寄ってきて、俺の膝に何かをのせた。


『マスター、偽神を浄化しながら体当たりしたら、こんなものが取れたからあげるワン』

「いつの間にそんなことを──って、もふもふー!」


 もらったものを指先でつまみ持った瞬間、思わず興奮して叫んでしまった。

 みんなにギョッとした顔で見つめられて、ちょっと反省。すまんな……。


 ワンダーがくれたものは、手のひら大の丸い毛玉にキツネ耳のようなものがついたものだった。

 ちょっとモフタマ(リルのバージョン)に似てる。これは魔物じゃないから生きてないし、ぬいぐるみのようなものだけど。


 触り心地は最高だ。触った瞬間に、思わず叫んじゃうくらいに。


〈ナッ!? それは、妾の自慢の毛……!〉

「あ、やっぱそうだよな」


 偽神が目を見開いて驚いてる。

 ワンダーが偽神から取れたって言ってたし、俺は納得したけど。


 なんで取れたかは知らん。浄化したら分身が取れるみたいなことがあるのかも?

 とりあえず、偽神産のものでも、浄化してあるからもはや別物ということで。これはただの可愛いもふもふなぬいぐるみだ。


「……浄化したら、その部分が円形脱毛になるのかな」

「ブフッ!」


 歩夢がボソッと呟いた言葉に、俺は思わず勢いよく吹き出して笑ってしまった。

 円形脱毛! 確かに、このミニぬいぐるみ分の毛が取れたら、そこはちょっとハゲてる可能性が高いよな。


 偽神も気になったのか、必死に体中を見回してる。

 ……あ、うまい具合に隠れてるけど後頭部の毛がちょっと薄くなってるような──うん、見なかったことにしよう。


 回復力がすごくても、ハゲはどうにもできないのか。

 神秘だナァ……。 


 偽神から目を逸らし、尊い犠牲(?)によって誕生したミニぬいぐるみを見下ろす。

 羽紗神様うさかみさまって俺と同じくもふもふ好きっぽいし、これをお賽銭代わりにしたら喜ぶかも。


 ということで、ミニぬいぐるみを羽紗神様うさかみさまの写し身の前に置いて、二礼する。

 そして、パンパンッと二拍手して、手を合わせながら写し身の目を見つめた。

 

羽紗神様うさかみさま、どうか俺の願いに耳を傾けてくれませんか……」


 偽神が騒いでる声だけが聞こえる。

 しばらく待ってみても応えてくれる声はなく、諦めかけた頃にフッとミニぬいぐるみが消えた。

 そして、頭の中に、見たことがないのになぜか懐かしく感じる光景が思い浮かぶ。


 神社だ。

 大きな鳥居の向こうに社が見える。

 そこには『賽銭箱』と書かれた木の箱があり、俺が捧げたミニぬいぐるみが置いてあった。


 不意に、賽銭箱の奥にあった扉が開き、その隙間から羽衣のような薄い布がヒラヒラと現れる。


〈知っている魂がやって来たと思ったら、そなたはわたくしの眷属を命がけで救いし者ではありませんか〉


 厳かな声が聞こえた。

 賽銭箱の陰から、白ウサギがひょっこりと顔を出す。


 なんとなく見覚えがあった。たぶん俺が事故から助けようとしたウサギだ。

 俺が救おうとしたのって、羽紗神様うさかみさま自身じゃなくて、その眷属だったのかー。


 その白ウサギは俺を見て、嬉しそうに駆け寄ってきた。


『か、かわよ……!』


 足元に来た白ウサギを撫で回す。最高のもふもふだー!


 ……あ、俺、いつの間にか違うところに来てるな。自分の声の聞こえ方もいつもと違う。

 周囲を見回しても、リルたちの姿がなくて、ちょっと不安になった。


〈心配はいりません。ここはわたくしの神域。そなたは魂の一部が入り込んでいるに過ぎず、帰ろうと思えばいつでも帰れるでしょう〉


 俺の不安を察してすぐに答えてくれる羽紗神様うさかみさま、めっちゃ優しいな!

 邪神や偽神とは大違いだぞ。あいつらはぜひ羽紗神様うさかみさまを見習ってほしい……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る