海辺で拾った大切なもの

海野雫

第1話 出会い

「危ないっ!」


 水族館の外にあるベンチに座り、ノートを取り出そうとバッグに視線を移すと、目の前で高校生ぐらいの男の子が柵をこえて海に飛び込もうとしている。夏ならまだしも、真冬の今、海水浴をするわけでもないはずだ。


 考えるよりも先に体が動いた。落ちる寸前に腕を掴むことができて、内心ホッとする。


「大丈夫か?」


 声をかけると、ゆっくりこちらを向く。真っ黒な瞳には光がなく虚ろだった。

 まるで心ここに在らず。


 ゆっくりと腕を引き上げて、柵の内側におろした。


「……離して」


 声をかけられ、力一杯腕を掴んでいることに気づき、そっと指をゆるめて手を離す。


「大丈夫か?」

 また同じ質問をしたが、返事はない。


「君、体が随分冷えてるな。とりあえず、カフェでも行こう」


 彼の背中に手を置いて、カフェへと向かった。


 これが俺、森本日向ひゅうがと彼、三本大和みつもとやまととの出会いだった。

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