イカと人魚のハーモニー

シエリアは鉄道てつどうを使ってパパタ海岸かいがんへとかっていた。


現地げんちに着くと今回の依頼人クライアント、メーチェから事情じじょうを聞いた。


彼女はセポール大学の考古学専攻こうこがくせんこう女教授おんなきょうじゅで、いかにもやり手といった雰囲気ふんいきだ。


本題ほんだいに入ろうか。最近、パパタの近海きんかい古代こだい宝物ほうもつんだ船が沈没ちんぼつしてしまったんだよ。君にはそれを出来できかぎ回収かいしゅうしてほしいんだ。おっと、これは金儲かねもうけが目的じゃない。文化財ぶんかざい保護ほごだよ」


するとメーチェはひたいに手を当てた。


「サルベージ会社に回収かいしゅうたのんだら連中れんちゅう財宝ざいほうをくすねてね。報酬ほうしゅうをはらっているというのに。ありえないよ。おかげで発掘資金はっくつしきんはすっからかんさ」


回収かいしゅう困難こんなんを極め、相当そうとう苦労くろうしているようだ。


「コインとか、小物こもののアクセサリーとか出てくると思うんだ。でも今回、一番保護いちばんほごしたいのは″パターヤのおんなぞう″なんだ」


シエリアは首をかきげた。


「″おんなぞう″はクライン・プラチナせい沈没船ちんぼつせんの中ではもっと歴史的価値れきしてきかちがあるとされるんだ。何としてもこれは回収かいしゅうしたい」


そう言って女教授おんなきょうじゅうつむいた。


「ハァ……せめて私がおよげればな……」


シエリアはこれに反応はんのうした。


案外あんがい、地道に探したほうが効率こうりつよくひろえるかもしれませんよ」


それを聞いた女教授おんなきょうじゅ頓狂とんきょうな声を上げた。


「ウソでしょ!? およいでしらみつぶしに探すってこと!?」


雑貨屋少女ざっかやしょうじょにはそれなりに勝算しょうさんがあるようだった。


シエリアは早速さっそく、ダイビングスーツをレンタルしてきた。


彼女は運動神経うんどうしんけいはほぼないし、ましてや戦闘手段せんとうしゅだんも持ち合わせてはいない。


しかし、なぜだか唯一ゆいいつ水泳すいえい得意とくいとしていた。


浜辺はまべに立つとペタペタと全身全身にしろく、ひらひらしたセンサーをけた。


10本の白いセンサーを取りけるとその姿すがたはまるでイカ人間にんげんだった。


思わずメーチェ教授きょうじゅ不安感ふあんかん爆発ばくはつさせたが、今は彼女にたよるしか無い。


「じ、じゃあ、私はボートの上で待機してるから。何か見つけたら上がってきてくれよ」


彼女がぎ出すと同時にシエリアは海にもぐった。


両手にはダウジング、身体からはウニョウニョと白いセンサーを伸ばした。


「!!」


少女は全身のセンサーに反応を感じた。


注意深ちゅういぶかくそこいらのすなをのけるとコインが8つも出てきた。


それらはびていたが、古代こだいのものであるからして当然とうぜんだと思えた。


ダイバーは上昇じょうしょうし、メーチェに報告ほうこくに行った。


コインを手にとって鑑定かんていした彼女は感嘆かんたんの声を上げた。


「うわっ、すごいよ!! めちゃくちゃ精度せいどが高いじゃん!!これならきっと″おんなぞう″も見つかるよ!!」


最初はシエリアに懐疑的かいぎてきだったメーチェだったが、次第しだいいきが合っていき、良いバディになった。


こうしてこのコンビは数々かずかずのサルベージャーを出しいて財宝ざいほうを集めまくった。


あまりの成果せいかに彼らはゆびをくわえていらつくしかなかった。


ふざけた格好かっこうをしておよいでるだけに見えるのだ。無理もない。


サルベージから3日ほどった。


海の家でシエリアとメーチェはミーティングをしていた。


すると女教授おんなきょうじゅはにっこり笑った。


「回収した価値の高い財宝ざいほうは全体の8わり。これは素晴すばらしいね。当初の目的からすると出来過できすぎたレベルだよ」


だが、同時になやましげでもある。


「ただ、気になるのはやっぱり″おんなぞう″だね。話を聞くに、他の業者ぎょうしゃや個人からの回収報告はないね。まだどこかにまっていると見るのが妥当だとうかな」


しばらく沈黙ちんもくするとメーチェは決断けつだんした。


「シエリアくん体力面たいりょくめん考慮こうりょして、この依頼いらいは4日目目かめ明日あすに切り上げます。私の判断で今回の依頼いらい大成功だいせいこう。″例の像″の有無は問いません。キミは本当によくやってくれたよ」


依頼者クライアントの決定とは言え、シエリアには納得なっとくがいかなかった。


仕事を完遂かんすいしないのは難題請負人なんだいうけおいにん沽券こけんに関わる。


シエリアは必ず明日のうちに文化財ぶんかざいを手に入れようと決意けついしてねむった。


翌日よくじつ、シエリアたちはいつものように財宝ざいほうを探し始めた。


開始から間もなく、すなの中に何かを発見した。


いたっ……」


さらさらとすなをどけるとそこにはやりらしきものの先端せんたんがのぞいていた。


取り出すとやはりヤリだ。


比較的ひかくてき保存状態ほぞんじょうたいの良いものらしい。


シエリアはそれをひろいあげた。


さきほど出来た小さな傷口きずぐち塩水しおみずみてジクジクといたむ。


そうこうしているとあたりの雰囲気ふんいきが変わってきた。


小魚こざかな姿すがたを消したのである。


シエリアはとてつもなくいや予感よかんがした。


「これって、まさか……」


彼女が振り向くと巨大きょだいなサメがせまってきていた。


指から出るにおいにさそわれてきたのである。


ここは海水浴場かいすいよくじょうではあるが、極稀ごくまれ鮫警報さめけいほうが出る。


シエリアは運悪うんわるくそれと鉢合はちあわせしてしまったのだ。


大きなあごを開いてサメはおそいかかってきた。


シエリアはパニックになってヤリをき出した。


するとたまたまやりがサメの上顎うわあご下顎したあごにハマってつっかえぼうのようになった。


冷静れいせいさを取り戻した少女はサメ撃退煙幕げきたいえんまくを投げつけた。


くちの中にほうり込んだので化物ばけもの何度なんどもむせた。


そして巨大きょだいサメはヤリを外すとそのまま海のやみに消えた。


雑貨屋少女ざっかやしょうじょ一安心ひとあんしんしていると海底かいていまばゆかがやく何かを見つけた。


いきが続かなかったので、とりあずそれを披露とシエリアは水面すいめんに上がった。


するとメーチェがきついてきた。


「大丈夫!? はぁ、良かった。あの巨大きょだいサメ相手あいてによく生きていたね。さぁ、もう発掘はっくつは終わりだよ。キミに無茶むちゃをさせすぎたのは良くなかった」


シエリアは片手かたてつかんだ光る物体ぶったいを思い出して、それを女教授おんなきょうじゅに見せた。


「こっ……これは、まさに″パターヤのおんなぞう″じゃないか!! そうか。あれはパタタヒカリザメだったんだね。ひかモノが好きでよく飲みむんだよ」


ぞうは名の通り、きじゃくる女性をかたどったものだった。


主人の浮気になげく女性をモチーフにしたなんとも罪深つみぶかい逸品いっぴんだ。


こうして古代財宝こだいざいほうを無事に持ち帰ったメーチェは学会がっかい評価ひょうかされ、引っりだこになった。


ホームのセポール大学でも人気者になり、彼女の講義こうぎ毎回まいかい満員まんいんになった。


メーチェとしてはシエリアの功績こうせき非常ひじょう評価ひょうかしていて、おおやけに呼んでで称賛しょうさんしようとしていた。


だが、雑貨屋少女ざっかやしょうじょは悪く思いつつもそのさそいはすべて断った。


理由りゆうはトラブル・ブレイカーの存在そんざいがメジャーになりすぎることをしとしなかったからだ。


知名度ちめいどが上がると動きにくくなることも多い。


何よりシエリア自身じしんが目立つことをきらうというのもあった。


それに、その隠密性おんみつせい依頼人くらいあんとからの信頼しんらいているというめんもある。


やはり普段ふだんはのんびり店番みせばんをしているくらいでちょうどいいのだ。


彼女が新聞しんぶんを見ていると気になる記事きじがあった。


「あっ!! この間の発掘はっくつけんだ!! なになに……?」


沈没船ちんぼつせん財宝ざいほうを多くのサルベージャーがねらうも、なぞ生物せいぶつによってこそぎ強奪ごうだつされる。目撃者もくげきしゃによるとイカのあしのついた女性だったという。地元ではイカ人魚にんぎょばれ、おそれられているらしい″



今回はいつにもましてフィジカルにひび依頼いらいでした。


まぁ普段ふだん運動不足うんどうぶそくだからこれくらいはいいかなと思いました。


でも怪人かいじんイカ人魚にんぎょはちょっとなぁ。


これ完全かんぜんに怪人かいじん仲間入なかまいりなのでは?


……というお話でした。

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