清らかなる駄菓子屋の乙女とは?

シエリアの店は駄菓子だがし滅法強めっぽうつよい。


これは祖父そふ、ボンモールのこだわりをいだものだ。


古今東西ここんとうざいのものがそろっていると言っても過言かごんではない。


今日も在庫ざいこ管理かんりしているとおきゃくさんがやってきた。


こし細長ほそながつるぎした浪人風ろうにんふうの男性だ。


なにせ駄菓子だがし充実じゅうじつした店だ。


このコーナーには老若男女ろうにゃくなんにょがやってくるし、男性客だんせいきゃくも珍しくはなかった。


流石さすが剣士けんしめずらしいが、シエリアは特に気にかけなかった。


彼女はいて立ち上がると微笑ほほえみかけた。


「いらっしゃい。何かおさがしですか?」


浪人ろうにんはなぜだかシリアスな顔をしている。


「私はムサシという者だ。ここに″チトセアメ″は置いてあるか?」


シエリアはたなから駄菓子だがしを探した。


「えっと、千歳飴ちとせあめっていうと棒状ぼうじょうでとっても固くて、けそうなアレですね」


アメを取り出して男性にそれを渡すと彼は首を左右さゆうった。


「すまん。言葉足ことばたららずだった。私が探しているのは″チトセアメ・ブレード″だ」


奇妙きみょう名称めいしょうだったが、駄菓子だがし玄人くろうとであるシエリアには心当こころあたりがあった。


千歳飴ちとせあめ武器ぶき転用てんようしたアレですか? ってこの世にれぬものは無いって言われている……」


それを聞いたムサシは雑貨屋少女ざっかやしょうじょかたつかんではげしくすった。


「それ!! それだ!! 取りあつかってはいないか!?」


シエリアはへろへろになりながら答えた。


「あれは、伝説でんせつクラスのアイテムで。それにウチは雑貨店ざっかてんなので武器は売ってませんよぉ」


なぜだか彼は深くかたを落とした。


「まずい。まずいぞ。せいなるチトセアメがないと、よこしまなチトセアメをくだくことは出来ない。このまち危機ききだ!!」


なんだか物騒ぶっそうな事を言っている。少女は事情を聞くことにした。


どうやら彼は邪悪じゃあくな力を持つチトセアメを追って旅をしてきたらしい。


同時にせいなるチトセアメも探してきたが、まだ見つからないという。


なんでもよこしまつるぎにはすさままじいちからがあり、人間をカッチカチのアメにしてしまうという。


このままではセポールの住民は全員チトセアメになって全滅ぜんめつしてしまうらしい。


眉唾まゆつばだったが、彼女は人の言うことをよく信じるタイプだったので親身しんみ対応たいおうすることにした。


そんな時。だれかがトテトテととシエリアの店へ走ってきた。


雑貨屋ざっかやの友人でのろいのアイテムを扱う呪術屋じゅじゃつやさんだ。


全力疾走ぜんりょくしっそうしてきたのか、ひどいきが上がっている。


これはただごとではないと一目でわかった。


「ハァッ、ハァッ、シエリアさん、よこしまなチトセアメブレードが街に入ってきたんですよ!! まだ被害は出てませんが、人から人へわたっているみたいなんです!! え? それなんのことって?」


あせる彼女を落ち着かせて、シエリア、ムサシとの3人で情報を共有きょうゆうした。


すると浪人ろうにんこしつるぎを抜いた。


それは千歳飴ちとせあめで出来たつるぎだった。


「くっ、これは何の変哲へんてつもない得物えものだが、かくなるうえはこれで邪悪じゃあくやぶるしかあるまい!! 黒いローブの少女よ、よこしまなチトセアメのところへ!!」


声をかけられた呪いの専門家せんもんかは首をコクリコクリとたてった。


「え、あ、はいッ!! いきましょう!! セポールを守らないと!!」


2人はものすごいいきおいいで街中まちなかへ走っていった。


シエリアは完全に置いてけぼりになってしまった。


そしてなんだか無性に心配になってきた。


確かにムサシはたよりになりそうだし、うでが立ちそうなオーラを放っていた。


しかし、いかんせん武器はただの千歳飴ちとせあめである。


響きからしていかにも強そうなよこしまなブレード相手あいてではが悪すぎるのではないかと思えてきた。


かといってせいなるブレードが用意できるわけでもない。


シエリアには手をこまねくしかなかった。


「うーん、図鑑ずかんとかにのってたっけなぁ……?」


彼女は記憶を頼りに普段、使わない本をとり出してきた。


「おっ、あった!!」


そこにはせいなるチトセアメ・ブレードの解説かいせつっていた。


「なになに? きよらかな駄菓子屋だがしや乙女おとめのみがつことがてきる名刀めいとう……?」


これならなんとかなるかもしれないと少女の顔色は明るくなったが、ひっかかるところがあった。


きよらかなる……乙女おとめって何?」


思わずシエリアは頭をひねった。


「う〜ん、おはらい的なものかな? とにかくやってみよう!!」


こうして早速、彼女はおはらい用の装備に着替えた。


手にはおはらぼうを持ち、鉢巻はちまき左右さゆうに2本のロウソクをし、うらなのベールをかぶり、服は喪服を着た。


誰が見ても間違まちがった様式ようしきなのは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「神よ神よ神様よ。迷いし子羊こひつじの願いかけに答えてください!! どうか私をきよらかに!!」


はらい棒をブンブンとり回しつつ、彼女はしおをあちこちにバサバサとりまいた。


そしてかした大量の千歳飴ちとせあめ棒状ぼうじょうかたに流し込んだ。


そこにザーザーとしおらすと、ふたたびおはらぼうまわした。


その頃、セポール中央ちゅうおう噴水ふんすいではムサシがよこしまなブレードの使い手とち合っていた。


野次馬やじうま映画えいが撮影さつえいかなにかと思っているようだ。


「コジロー!! やめろ!! つるぎたましいを持っていかれるぞ!!」


やたら悪い顔をしたコジローと呼ばれた浪人ろうにん邪悪じゃあくなチトセアメをった。


「ハハッ!! ムサシ、貴様きさま弱音よわねくまで軟弱なんじゃくになったか!! もっとも、そのナマクラでは仕方しかたないがな!!」


コジローの斬撃ざんげきにムサシは鍔迫つばぜりり合いしたが、ただのチトセアメではやはりが重かった。


キイイィィィン!!


ムサシの折れた刀は宙に舞い、地面に刺さった。


「くっ、もはやここまでか……」


その時、聞き慣れた声がした。


「ムサシさん、これ!!」


コジローが斬りかかると同時にムサシのもとへチトセアメ・ブレードが飛んできた。


ムサシはそれをキャッチすると相手の攻撃を受けた。


受け取った千歳飴チトセアメは白く輝いていた。


「こっ、これはせいなるチトセアメ・ブレード!!これならッ!!」


目にも止まらぬ早さで2人は打ち合った。


ムサシが押し始め、コジローはうなった。


折れぬものと折れぬものの戦い。


そして決着がついた。せいなるものとよこしまなるもの。両方がボッキリ折れたのである。


手に汗握あせにぎっていた呪術屋じゅじゅつやさんはガッツポーズをとった。


「やったッ!! セポールは救われたんです!! ねぇシエリアさん!!」


くとそこには不審ふしんかいな服装の人物がたのだった。


「すまぬ。貴重きちょうなブレードをってしまって」


あやまるムサシにシエリアは声をかけた。


「いえ、いいですよ。もともとこのために打ったものですし……」


無事ぶじ危機ききを乗り換えたが、それでも呪術屋じゅじゅつやには疑問ぎもんが残った。


「ところでシエリアさん、なんですその格好かっこうは。何かの儀式ぎしきでもしてたんですか?」


珍妙ちんみょうな服装の少女はカタログを指さした。


せいなるチトセアメ・ブレードはきよらかなる乙女おとめじゃないと打てないんだって。きよらかっていうからには念入ねんいりにおはらいしなきゃと思ってね。でも、その甲斐かいあって、いいブレードができたでしょ?」


ムサシも呪術屋じゅじゅつやさんも思わずこれにはくちごもってしまうのだった。



まさか伝説でんせつ武器ぶきが作れるとは思いませんでした。


きっと駄菓子だがしに対する熱いおもいのおかげだと思います。


もちろん、おはらいも効果抜群こうかばつぐんだったんではないでしょうか。


……え? ユニコーンの伝説……? あっ、あ〜///というお話でした。

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