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私はそのことがとてもうれしかった。私の話にまともに取り合ってくれる大人は、アサヒさん以外にいなかったのだ。だから私は、アサヒさんがくれた答えを、せっせと脳に植え付けた。国語、五年生、10歳。アサヒさんに、そんな私の必死さが伝わっていたかどうかは、分からない。ただ、アサヒさんは私と話をしてくれた。それだけでよかった。
四度目に会ったとき、つまりそれが、父が私をアサヒさんに合わせた最後ということになるのだけれど、アサヒさんは別段、いつもと違うそぶりは見せなかった。それでも私は注意深く、アサヒさんに会えることを自分の中で当たり前のことにしないように気を配っていた。これで最後かもしれない。いつもそう思ってアサヒさんと向き合っていた。そうしなくては、本当に最後になった時に後悔をするから。父も、普段と同じように黙って私の隣に座っていた。その日父が、これで最後だと決めて私を銀座に連れて行ったのかすら、私には分からない。
いつものように、一時間くらいアサヒさんと話した。そして、私が渇いた喉を潤す沈黙の一瞬を見逃さず、父が、行こうか、と言った。私には、拒否権がなかった。アサヒさんは、微笑んで私と父を見比べた。私は、じっとアサヒさんを見ていた。それで、最後だった。
一か月に一度の頻度で、父は私を銀座に連れて行っていたから、季節は春から夏に移り変わっていた。四度目にアサヒさんと会ってから、一か月が経った頃、私は父がもう、銀座に私を連れていく気はないのだろう、と察した。連れて行って、と、母の目を盗んで頼むことは、物理的には可能だったけれど、私にはできなかった。父になにかを頼む、ということ自体、したことがなかった。
暑い夏の日、学校から帰ってくると、母が手作りのおやつを出してくれる。それを食べて、自分の部屋へ宿題をやりに行く。いつものルーティンだ。ただ、私はその日、宿題をやる前に赤い缶を開けて、かつて集めていたポストカードを取り出した。一枚一枚、眺める。どの絵も、どこか居心地が悪そうに縮こまって見えた。それから私は、一枚ずつポストカードを燃やしていった。辛抱強く、一本、また一本とマッチを擦って。そして、その灰を残らず赤い缶に入れて、母に見つからないように静かに家を出ると、近所の公園の片隅に穴を掘って、缶を埋めた。それから、後も見ずに自分の部屋に戻った。その公園には、それ以来一度も行っていない。
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