第28話 電気
「そういえば、シズクはゾンビが集まる場所を変えた理由を知っているか?中央集落で火事があったが、それだけが原因とも思えないんだ」
桜は、シズクに尋ねる。
俺はすべての原因は中央集落の火事だと思っていたが、桜は違うらしい。違う要因と火事が共に起こった事で、ゾンビが進路を変更したと考えているようだった。
「ゾンビの行動が変わってのは、近くの建物が崩壊したからよ。元は大きなショッピングモールだったんだけど老朽化で崩壊したようなの」
建物の崩壊という話に、俺は恐れをなした。
昔も建物の崩壊があり、中央集落の近くに大量のゾンビが引き寄せられた。それを命がけで退治した経験があったからだった。
あの頃は、ゾンビが多すぎて集落を別の場所に移すという意見もでたほどだった。結局は退治することに成功したが、あの恐怖は二度と味わいたくない。
「建物の崩壊の音でおびき出されたゾンビが、ここら辺をうろうろしているわけ。だから、私たちも見張りを強化していたの」
シズクは、大きなため息をついた。
ゾンビが進路を変更した問題は、公営住宅の住民に心理的な負担をかけているようだ。
「おかげで、ここを去る人間もいるわ。有志で見張りや落とし穴を掘っているけど、根本的な解決にはならないし……」
ゾンビは、大きな音におびき寄せられる。
その特性を生かして、ゾンビの進路方向を変える案も出たことが中央集落ではかつてあった。
しかし、数匹のゾンビだけが興味を持って移動しただけで、作戦は失敗してしまったのだ。
ゾンビの進路を変えさせるのは、簡単なようでとても難しい。
ゾンビを引き寄せるためには音を使うのだが、大きすぎる音は他のゾンビも引き寄せてしまう。そして、小さな音ではゾンビを引きつけられない。
元々は人だというのに、ゾンビというのは面倒で困る。
「シズク、俺たちと一緒に中央集落で住むか?シズクならば、守さんも巫女様も歓迎すると思う」
シズクは犯罪者ではない。犯罪者親を持っただけの子供だ。シズクの力は、中央集落のためにもなる。
俺の誘いに、シズクは首を振った。
少しでもシズクに安全な場所を提供したいと思って誘ったのだが、大きなお世話だったらしい。
「一二三のことは好きだけど、皆で仲良しこよしの集落は嫌い。好きな時に出て行けるこちらの方が、ずっとマシよ。私にとっては、だけども」
シズクは、彼女なりの考えを持っている。
中央集落で暮らせば、シズクの生活が楽になると考えた俺は浅はかだった。
シズクは寄り集まった安全よりも自由を愛しているのだ。それは、誰も強要できないシズクの芯だ。
「私のお母さんは、集落のなかで起った事件の濡れ絹を着せられて追放されたの。……そんな集落と言う場所に、私は行きたくないわ」
俺は、言葉に詰まってしまった。
そんなことを聞くのは、初めてのことだからだ。
シズクの両親は、すでに亡くなっていると聞いていた。だが、よく考えれば死因すらも聞いたことはなかった。聞かない方が良いと思っていたのだ。
「そうか……。無神経に誘ったりして悪かったな」
実のところ、シズクの母親のように冤罪で追放されてしまう人間もいる。ゾンビがはびこる前の世界では科学捜査などもあったが、そんな便利なものは現代にはない。
精一杯の捜査は行われるが、他の人間に冤罪をなすりつけるのは簡単だ。
「一二三は、悪くないわ。こういうのは、何も言わなかった私が悪いの」
シズクは、母親について語り始める。
その表情は、少しだけ厳しいものだった。
「お母さんは優しいけど、立ち回るのが下手だったわ。だから、集落で濡れ衣なんて着せられたのよ」
シズクは、弱い母親をあまり好いてはいないようだった。けれども、身内のことだ。そこには、複雑な感情が渦巻いているのだろう。
「集落の外では、とても長生き出来るような人ではなかったわ。父に守ってもらって、初めて生きていけるような人だったのよ」
シズクは、肩をすくめてみせた。
俺は、戸惑う。
母親が濡れ衣で集落を追い出されたのならば、集落を嫌うのは当然だ。
集落からやってきた俺のことだって、嫌っても致し方ない育ちであった。それなのに、シズクは俺とも仲良くしてくれている。シズクの心の広さは、とてつもないものだ。
「言っておくけど、母が追放された集落に怨みとかもないから。私ものんびりと生活が出来ているし、ここは手放しで気に入っているの」
シズクは、朗らかに笑っていた。
集落に怨みはないというのは、本当らしい。そして、公営住宅での暮らしも心の底から楽しんでいる。
「シズクが、シズクで良かったよ」
シズクが無差別に集落の人間を嫌っていたら、俺とは仲良く出来なかったであろう。だから、シズクの心の広さに、俺は感謝しかできない。
友人としてだが、俺はシズクのことが好きだ。
シズクが俺に向けてくれる気持ちとは違うベクトルかもしれないが、シズクには幸せになって欲しいと思っている。
「それよりも北の集落は、どうなっているの?詳しいことが分からないんだけど」
シズクの疑問に答えたのは、桜だった。現状では、桜が一番多くの北の集落の情報を持っている。
「ああ、そうだったな」
桜は、シズクを真っ直ぐに見つめながら話を始めた。シズクも緊張した面持ちで、桜の話に耳を傾ける。
「北の集落は、電気と言うものを使って栄えている。でも、そこではさらってきた人間同士を戦わせてーー……」
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